本研究の目的は、難治性てんかんの電気刺激法を応用し、内臓感覚の賦活化による唾液分泌と嚥下機能を促進する機序を解明することである。本課題では、内臓感覚を賦活化する物質がラットの唾液分泌や嚥下運動等の顎口腔機能に与える影響を検証することとした。Wistar系雄性ラットに全身麻酔を施し、顎下腺導管に圧トランスデューサを接続して、内臓不快感を誘発する物質を腹腔内投与し、投与前後の唾液分泌量を測定した。更に、左側迷走神経の中枢側断端に刺激電極を留置し、嚥下運動の際に活動する顎舌骨筋の筋電図を記録しながら、迷走神経への連続電気刺激前後の唾液分泌量を測定した。また、迷走神経の電気刺激によって誘発された嚥下様運動が唾液分泌に与える影響を検証するため、筋弛緩薬を静脈内投与して不動化し、同様の測定を実施した。また、顎下腺を支配する副交感神経節前線維が含まれる鼓索神経を切断して同様に実験した。その結果、以下の知見が得られた。 (1)内臓感覚を賦活化する物質の腹腔内投与によって、唾液分泌量は有意に増加した。 (2) 内臓感覚を賦活化する物質の腹腔内投与によって、迷走神経求心性線維の活動が有意に上昇した。(3)左側迷走神経の中枢側断端の電気刺激によって、唾液分泌と嚥下様運動は有意に増加した。(4)不動化し嚥下様運動を抑制した後も、迷走神経の電気刺激によって唾液分泌は誘発された。(5)鼓索神経切断後、左側迷走神経の電気刺激によって唾液分泌は誘発されなかった。 以上のことから、内臓感覚が唾液分泌や嚥下機能等の顎口腔機能に関与することが示唆された。
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