研究実績の概要 |
本研究では、超弾性(応力負荷・除荷による可逆的な結晶相転移を伴う固体変態特性)を示す多孔性金属錯体の合成を目指し、様々な低分子有機化合物の単結晶に関して応力誘起変態を探査し、超弾性発現の鍵となる分子構造・結晶構造等を調べた。その結果、超弾性と同様の応力誘起変形ではあるが自発逆変形性を示さない”強弾性”を示す有機化合物(5-クロロ-2-ニトロアニリン、4,4'-ジカルボキシジフェニルエーテル、アジピン酸)を見出した。顕微鏡下観察、単結晶X線構造解析、単結晶試料のせん断試験により、ミクロ-マクロ両面からの強弾性変形機構の解明および機械的特性の観測に初めて成功した。 これまで強弾性は原子性固体である合金等の無機材料において研究されてきたが、分子性固体である有機物単結晶の強弾性(有機強弾性)の研究は殆ど行われていなかった。本研究で見出した有機強弾性は、分子配向変化、分子内回転、分子コンフォメーション変化を伴う双晶変形機構により生じる。これは、高い構造自由度に起因する分子柔軟性を特徴とした新しい強弾性材料である。強弾性は変形した固体形状を元に戻すために逆向きの応力負荷が必要である以外は、除荷により自発的形状復元が起こる超弾性と本質的に同様のせん断型無拡散変形であり、その構造解析・機械特性観測から得た知見は今後の超弾性探査・合成に活かせる。また、強弾性材料は、超弾性体と比べて原理的に散逸エネルギー密度に優れるため、振動吸収材料への応用展開も期待できる。
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