研究課題
ヒト免疫不全ウイルス(HIV)が感染細胞から排除されない要因の一つとして、ウイルス感染に伴う自然免疫応答が十分に活性化しないことが挙げられる。本研究課題では、HIV由来プロテアーゼ(HIV-PR)が宿主自然免疫関連因子群を切断・不活化することで、自然免疫応答の誘導を阻止するという仮説のもと研究を進めている。本年度は、in vitro 基質切断アッセイ系を構築し、この系を用いてHIV-PRの基質候補タンパク質の同定を行なった。まず、コムギ無細胞タンパク質合成系を用いてHIV-PRおよび23種類の宿主自然免疫応答関連因子のリコンビナントタンパク質を合成した。作製したリコンビナントタンパク質を用いて、in vitroにおける切断反応を行い、AlphaScreen法および蛍光イムノブロット法の2種類の手法を用いて基質の切断を検定した。その結果、15種類の宿主自然免疫関連因子がHIV-PRにより切断されることを見出した。また、これら候補因子は、不活性型変異体であるHIV-PR D25Nにより切断されなかった。さらに、基質候補タンパク質のうち切断断片の回収に成功した3種類のタンパク質に関して、N末端アミノ酸配列分析を用いて切断部位を特定した。次に、培養細胞を用いて、基質候補因子とHIV-PRの共発現系させたところ、HIV-PR発現量依存的に宿主タンパク質が減少することを確認した。また、基質候補タンパク質のうち、プログラム細胞死の一つであるピロトーシスに関与する因子に関して、HIV-PRとの共発現により細胞上清中の乳酸脱水素酵素(LDH)の上昇が確認され、細胞障害が増強したことが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
リコンビナントタンパク質を用いたin vitro切断アッセイ系によりHIV-PRの基質候補となる因子の同定に成功し、さらにその切断現象を培養細胞での過剰発現系を用いた系においても確認できた。また、HIV-PRの宿主因子切断によるプログラム細胞死への関与が示唆された。
同定した基質候補タンパク質の切断部位の同定を進めるとともに、候補タンパク質が培養内でも同様に切断されるかどうかの検証を行なう。また、HIV-PRによる宿主因子切断がI型インターフェロン(IFN)産生に影響するかどうかをルシフェラーゼアッセイによるIFNβプロモーター活性の測定やELISA法によるIFNβ産生量の測定などにより検証する。さらには、HIV感染細胞におけるHIV-PRの機能を解析し、HIV-PRの慢性感染成立における役割について検討する。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 3件)
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