研究課題/領域番号 |
16H07112
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研究機関 | 都留文科大学 |
研究代表者 |
田口 麻奈 都留文科大学, 文学部, 講師 (80748707)
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研究期間 (年度) |
2016-08-26 – 2018-03-31
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キーワード | 鮎川信夫 / 1950年代 / 戦後詩誌 / 戦後の広島詩壇 / 呉市の文化活動 / 詩歌原稿展 |
研究実績の概要 |
平成28年度は、申請課題にとって主要な柱である1950年代の詩誌の整理および詩的状況の踏査において、ほぼ予定通りの成果を挙げることが出来た。 まず、申請者が広島の詩人・宮田千秋から寄託されていた1950年代の詩誌について、より精確な資料目録を作成した結果、当初の概算を上回って750冊以上に及び、全国の群小詩誌を中心に多くの稀覯本が見出された。本年度は、それらを公益財団法人・日本近代文学館に寄贈し、戦後詩研究にとって重要な一次資料を公共化することが出来た。また、それらの資料の蒐集者であり、「荒地」の鮎川信夫と密接な関係にあった宮田氏の活動の履歴や、発行拠点となった呉市の文化状況の詳細について、資料目録とともに学会誌に紹介した。 なお、宮田氏と鮎川が共同で創刊した詩誌『囲繞地』は、これまでほとんど知られてこなかった広島詩壇における戦後詩の重要な展開を示す資料であると同時に、1950年代の鮎川の動向を知る上でも貴重な資料である。後続の世代による「荒地」批判を受けつつあった当時の鮎川が、広島の詩人たちとともに新しい同人誌を営もうとしたことは、鮎川における詩的共同性の意義を問う上で重要な示唆を含んでいる。この『囲繞地』を中心に、多くの新資料を織り交ぜながらその問題について論文化し、学会誌に寄稿した(H29年4月掲載済)。 さらに、上記の宮田氏の旧所蔵資料には、1950年代の左翼文化運動の所産である「反戦平和のための詩歌原稿展」や「原爆展」の展示資料が含まれており、傷みの激しいそれらの資料をいかに保全・公共化するかが本年度の課題であったが、原爆文学や文化運動研究の専門家である川口隆行氏(広島大学准教授)や、それらの運動と関わりの深い在日朝鮮人文学を研究する逆井聡人氏(東京外国語大学特任講師)らの協力を得てすでに検証作業に入っており、公共化への歩を進めることが出来た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
【研究実績の概要】で示したとおり、本年度における当初の計画はおおむね達成し論文として発表することができた。なお、詩誌およそ750冊の整理の過程では、予期した以上に本研究にとって重要な材料となる誌面も確認され、今後の研究成果に反映できる収穫が多くあった。「反戦平和のための詩歌原稿展」や「原爆展」の展示品等の資料に関しては、資料の性質上、整理に時間がかかると思われるが、研究協力者との共同作業のための準備を整え、作業に着手することが出来ている。その他、論考に盛り込みきれず、他の発表の機会を得なければならない関連資料についても、関係者・権利者との意思疎通が保たれている状態であり、今後の研究を進める上で特に憂慮すべき問題は生じていない。 ただし、鮎川信夫の詩篇そのものに関する検討は、第一次資料の検証作業に圧迫されて遅れ気味であるため、次年度の課題として持ち越す必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
今後の課題としてはまず、前年度に引き続き、「反戦平和のための詩歌原稿展」および「原爆展」展示資料の整理を進め、最終的な目標を設定する必要がある。現時点では、「原爆展」と関わりの深い丸木美術館(公益財団法人)への寄贈を有力な選択肢として検討しているが、資料をより多くの人の参考に供するため、現物の寄贈のみならず、デジタル化を前提にトータルな資料体を作成することを目指す。これに関しては、連携研究者と相談の上、最適な形を模索したい。 また、本研究の申請時には、1950年代の重要な詩誌として「東大詩人サークル」の機関誌の検討を研究計画に入れていたが、平成28年度に、かねて助言を仰いでいた研究協力者の急逝を受け、作業を進めることが出来なくなった。これに関しては、本研究における計画を中止する。ただし、これまでに研究協力者と共有しながら揃えてきた第一次資料から、部分的に本研究に生かせる点を探し、考察に組み込んでいくつもりである。 また、昨年度中に、申請時には具体化していなかった多くの海外の戦後詩研究者との交流の地盤を作ることが出来たため、平成29年度に参加予定の国際学会、および日本での研究会の開催を視野に入れて、国際的な日本戦後詩の研究基盤を固めていきたい。
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