平成29年度は、年間の研究計画をほぼ遺漏なく実行に移すことが出来た。 まず、広島の詩人・宮田千秋から寄託された1950年代の貴重資料「反戦平和のための詩歌原稿展」および「姫路原爆展」の展示資料について、その来歴と実態をほぼ明らかにすることが出来た。全国の著名な詩人から集められた葉書や原稿類からなるこの展示資料の整理・公開には大きな公共的意義があり、その一端については、学会誌に発表した論文のなかでも言及した。本年度の進捗としては、研究協力者である川口隆行氏(広島大学准教授)、逆井聡人氏(東京外国語大学特任講師)との共同作業を重ねたうえ、両氏による専門的考察と、申請者による調査報告書を形にするところまで到達した。作業としてはあと若干の資料のデジタル化と、上記の3名による原稿の印刷・冊子化を残すのみであり、近々に成果発表が可能である。また、これらの資料について、保管者であった宮田氏と同じ雑誌(詩誌「知覚」、後の「囲繞地」)に参加していたメンバーへの聞き取り調査を計画し、交渉のうえ、本年度中に実施日の確約に至った(その後、平成30年5月に実施)。なお、上記の資料は戦後の姫路の文化運動の実態を示すものでもあることから、姫路市立姫路文学館とも情報を共有し、資料面での研究協力を得た。 次に、「荒地」や鮎川信夫の詩をめぐる翻訳や海外受容の問題については、予定通り、「荒地」の詩のフランス語訳を手掛けるカリーヌ・アルネオド氏とポルトガルにて研究交流を行った。また、ジャック・ウィルソン氏(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)、フラボスキー・ドーラ氏(カーロリ・ガシュパール・カルビン派大学)ら海外の「荒地」研究者と共同で国際研究集会(「21世紀に『荒地』を読む」)を企画・実施し、鮎川の詩と詩劇との関連性、都市論としての性格について発表を行った。この成果は、現在刊行準備中の拙著に組み込む予定である。
|