研究課題/領域番号 |
16H07115
|
研究機関 | 愛知県立大学 |
研究代表者 |
田坂 浩二 愛知県立大学, 情報科学部, 助教 (30780762)
|
研究期間 (年度) |
2016-08-26 – 2018-03-31
|
キーワード | 多重ゼータ値 / モジュラー形式 / Broadhurst-Kreimer予想 / モチビック多重ゼータ値 / 複シャッフル関係式 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,多重ゼータ値とモジュラー形式の間の関係を記述するBroadhurst-Kreimer予想(以下,BK予想と略す)を様々な観点から解析し,部分的な解決を得ることである。BK予想は,提唱されて約20年が経つが,その大部分は未だ解決されておらず,多重ゼータ値とモジュラー形式の周期の間の奇妙な関係を理解するための幾何的な背景の研究と共に発展が期待されている。
本年度は,以下の研究を行った。 1. Gangl-Kaneko-Zagier (2006)によって得られた周期多項式関係式と呼ばれる2重ゼータ値の間の線形関係式の精密化を行った。具体的には,与えられたカスプ形式に対し,係数がカスプ形式のciritical valueの1次結合となるような2重ゼータ値の明示的な線形関係式を与えた。証明は,Brownにより得られたmotivic 多重ゼータ値からある形式的な代数への同型写像を計算すること,および2重ゼータ値が満たす複シャッフル関係式の有理数解(深さ2のrational associator)とカスプ形式とEisenstein級数のPetersson内積を計算することで得られるcritical valueの間の関係式(Kohnen-Zagier関係式)の係数を関係付けることによりなされる。全く異なる二つの対象(深さ2のrational associatorとKohnen-Zagier関係式)が結びついたことは興味深く,今後更なる発展が期待される。
2. 安田正大氏(阪大)と共同で,BK予想の深さ4の場合の解決に重要な役割を果たす,Brown(2012,2017)により定義された二つの写像cとeの比較を行った。前年度,両者に明示的な関係があることを観察し,安田氏により予想が定式化されていたが,今年度はこの予想の部分的な解決を得た。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は,深さ2,3,4に対するBroadhurst-Kreimer予想を様々なアプローチにより解析することで,多重ゼータ値とモジュラー形式の関係を深く理解することにある。今年度は申請書に記載した内容のうち,深さ2と4の場合のBroadhurst-Kreimer予想に対して,いくつか新しい結果を得ることができた。周期多項式関係式の精密化(深さ2の場合)については,その証明において,深さ2のrational associatorとKohnen-Zagier関係式の結びつきを見出すなど,想定外の進展があった。また,Brownの二つの写像を比較する研究(深さ4の場合)においては,予想が確からしいという確信につながるような部分結果が得られた。 しかし,同じく申請書に記載した深さ3の場合については,あまり進展が得られなかった。これには,多重Eienstein級数の研究を応用する予定であったが,多重Eisenstein級数の基本的な性質(例えば,微分方程式など)の発展が遅れている。
|
今後の研究の推進方策 |
Brownの二つの写像を比較する研究について,安田氏による予想を解決するためには,これまで行ってきた周期多項式の関係式を用いた具体的な計算による手法では,複雑さも増し,限界があると考えられる。安田氏と議論し,表現論などの手法を用いて新たな解決の糸口を見つける。 多重Eisenstein級数の基礎研究を発展させるべく,まずはElliptic 多重ゼータ値やElliptic KZB方程式などで使われている手法を学び,多重Eisenstein級数との関係性や類似点などを探る。今年度は,Max Planck研究所(ドイツ)に長期滞在するため,これらに精通する専門家(例えば,N. Matthes氏など)との研究交流が期待出来る。また,多重Eisenstein級数の非可換生成級数が満たす微分方程式の研究を行い,多重Eisenstein級数とB. Enriquezによるelliptic associatorとの関連を見出す。
|