陽子線がん治療で用いられる陽子は照射システム装置あるいは患者体内に存在する物質と核反応を起こし,二次中性子を放出することが知られている.二次中性子は様々な物質により散乱され遠くまで伝播するため,空間,エネルギー分布を推定することは容易ではない.とくに20 MeV以上の中性子は基準場がなく,生物学的効果のデータもほとんどないため定量的な評価が行われておらず,現在の治療計画でも全く考慮されていない. 本研究は陽子線照射場中で生成される二次中性子の被曝量を精度よく推定するために,二次中性子の空間及びエネルギー分布をサブミクロンの位置分解能をもつ原子核乾板を用いて測定することを目的とする.本年度も前年度同様,治療用陽子線を使った照射実験を行った. 前回サンプルの解析を進めた結果,一部の乾板で現像処理が不十分なため飛跡の黒化濃度に再現性がないこと,検出器前半部分の複数の乾板で構築時に生じた乾板相互の位置のねじれにより反跳陽子飛跡の接続が困難であることが分かった.これらの問題には適切な対策を施し,再実験を実施した.現像後,全乾板を全自動飛跡読取装置HTSでスキャンし,コンピューター上で接続した.解析を進めた結果,飛跡黒化濃度は全乾板でほぼ同一の値をとることを確認し,検出器中に記録された3 x 10^7本の飛跡を再構成することに成功した. これらの飛跡には宇宙線による飛跡や接続間違いによるフェイクトラックが存在するため,今後は反跳陽子飛跡のみを抽出するためのフィルタ条件を課したのち,飛程と角度分布を求め,モンテカルロシミュレーションと比較して原子核乾板検出器の中性子検出能力を評価する予定である.
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