研究実績の概要 |
本研究は、π受容性が低いホスフィン配位子とは異なり、σ供与性・π受容性ともに高いジホスフェン(リン-リン二重結合)の性質に着目し、触媒活性が高い軸不斉ビアリール置換ジホスフェン配位子の開発を行う。得られた配位子に対する錯形成反応を行うとともに、分子内環化反応の触媒として活用することにより、ヘリセン誘導体などの多様な芳香族化合物の構築を目指す。また、軸不斉ビアリール骨格がもたらすキラル環境を活かすことで、高いエナンチオ選択性を与える反応も開発する。 本年度は、軸不斉ユニットとして広く利用されている1,1’-ビナフチルに着目し、単座配位子となる1,1’-ビナフチル置換ジホスフェン1の合成を検討した。反応活性なジホスフェンの安定化を考慮して、1,1’-ビナフチルの3位にメチル基を導入した。前駆体となる2-ホスフィノ-3-メチル-1,1’-ビナフチル(2)は2-(メトキシメトキシ)-1,1-ビナフチルから5段階、総収率30%で合成した。その後、ホスフィン2の脱プロトン化、スーパーメシチルジクロロホスフィンとの反応によるジホスファンの生成、DBUによる脱塩化水素反応によって、目的とするジホスフェン1を54%の収率で黄色固体として単離した。ジホスフェン1はアルゴン雰囲気下、重ベンゼン溶液中において高い安定性を示した。31P NMRスペクトルとX線結晶構造解析から、ジホスフェン1のリン-リン二重結合性が支持された。さらに、ジホスフェン1の金錯体の合成を検討した。31P NMRスペクトルと予備的なX線結晶構造解析の結果、ビナフチル基側のリン原子の非共有電子対が金原子へη1配位していることが分かった。今後、詳細な構造を決定するとともに触媒反応へと展開する。
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