正常Wistar系雄性ラットの上腸間膜動脈を用い、血管機能に及ぼすエタノールの作用を等尺性張力の測定により収縮反応の変化について検討した。 前年度までに、IL-1β暴露1h後に見られたフェニレフリン収縮の増大は、トロンボキサンA2(TXA2)阻害剤であるインドメタシンの共存により消失したので、収縮の増大は、TXA2を介した反応と示唆された。さらに、TXA2を産生させるシクロオキシゲナーゼ(COX-1、COX-2)の阻害剤であるSC-560、NS-398、および内皮細胞のはく離処理により収縮の増大が抑えられた。今年度において、Wistar系雄性ラット(10週齢)に10%エタノールを含んだ液体飼料(Lieber食)を10週間投与し、慢性アルコール摂取ラット作製し、上腸間膜動脈を摘出し、張力を測定した。慢性エタノール群とコントロール群の各群の収縮反応下にIL-1βを追加し、両群比較によりTXA2を介した収縮反応へ及ぼす慢性エタノール摂取の影響について検討を行ったところ、慢性エタノール群がより一過性の収縮反応を強く示した。また慢性エタノール群は急性実験における弛緩反応と同様に弛緩反応を示さなかった。この収縮の増大とIL-1β暴露血管の弛緩反応の結果をふまえると、エタノール処理により、内皮細胞のCOXから産生されるTXA2を介した収縮反応をさらに増大させる傾向にあった。つまり、エタノールがIL-1β暴露3h後の弛緩反応に対し、前段階でTXA2を介した収縮を増大させることにより血管機能の恒常性の維持、もしくは生体防御的な反応を引き起こす可能性があると推察された。 これらにより、血管の収縮・弛緩の維持・恒常に重要なNOとTXA2との「クロストーク」を解明する手がかりとなり、飲酒による循環器関連の突然死や高血圧の発症の機序などの病態の解明に役立つものと考えられる。
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