研究実績の概要 |
前年度に引き続きストレス誘発胸腺萎縮におけるCCR5の病態生理学的役割について検討を継続した. 実験動物として8から10週齢の雄C57BL/6野生型マウス及びCCR5遺伝子欠損マウスを用い,ストレスモデルとして,マウスを空気穴を開けたファルコンチューブ(50ml)内に無麻酔下で入れ,1時間拘束する処置を3日間(拘束→自由→拘束→自由→拘束)継続した. CCR5遺伝子欠損マウスにおける胸腺重量の減少は約50%程度までであり,明らかにストレス誘発胸腺萎縮が抑制されていた.さらに,副腎重量においても野生型マウスで有意な副腎重量の増加を認めたが,CCR5遺伝子欠損マウスで副腎重量の増加を認めなかった.さらに,胸腺のアポトーシス細胞数は野生型マウスで増加し,CCR5遺伝子欠損マウスでは澄明な増加を認めなかった.これらのことからCCR5がストレス誘発胸腺萎縮に関与している可能性が示唆された.また,ヒトの胸腺組織においてCCR5の発現を認めた. 一方,他のケモカインレセプターであるCCR1は,CCR5と同じリガンド(CCL3,CCL4,CCL5)に対するレセプターであることから,CCR1遺伝子欠損マウスについても同様にストレスモデルに供したところ,野生型マウスと同程度の胸腺萎縮が認められた.このことはCCR5システムのみがストレス誘発胸腺萎縮に関与している可能性が示唆された.ただし,CCR5にはCCL3,CCL4,CCL5のリガンドがあることから,これらのどのリガンドが主体として胸腺萎縮に関与しているのかについて検討する必要がある.さらに,Fas抗原等のアポトーシス誘導因子の発現についてのCCR5システムの関与を検討する必要がある. ケモカインであるCCR5システムが,法医学分野においては虐待の補助的診断および虐待期間の推定のための指標となる可能性が示唆された.
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