本研究の目的は複数のマイクロデータを用いて,さまざまな税・社会保障改革のシミュレーション分析を行うことで定量的に,かつ従来の集計データを用いた分析よりも精緻に制度改革の影響を明らかにすることで,税・社会保障に関する政策的な課題と政策を考察することである。平成29年度においては分析に必要となる日本のマイクロデータ(厚生労働省『国民生活基礎調査』、総務省『全国消費実態調査』、『就業構造基本調査』)をすべて入手し,主に以下の3つの研究を行った. ①所得課税の所得再分配効果を税率による効果と各種の控除(給与所得控除,公的年金等控除および所得控除)に分解し,所得階級,年齢階級ならびに収入別グループごとに推計を行った.近年では税制の所得再分配効果の回復が議論されており,税率と控除に分けて所得再分配効果の推計を行うことは今後の議論の一つの指標を示すものである. ②要介護者を抱える世帯の生涯消費の平準化に焦点を当て,マイクロデータを用いて消費関数の推計を行った.介護を要する世帯員を抱える世帯は他の世帯と比較すると消費の平準化を行うことができておらず,現行の制度では不十分であることを示した. ③タイのマイクロデータを用いて、タイの個人所得税改革が夫婦世帯の労働供給に与える影響をdiscrete choiceモデルをもちいて分析し,現行のタイの個人所得課税制は高所得者のみに負担を強いるいびつな構造となっていることを示し,いくつかの改革案では家計の効用をほとんど減少させずに大幅に税収を増加させることができることを明らかにした。 本研究により、1本は査読付き雑誌への掲載に至り,2本の論文が紀要論文の掲載に至った。
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