当年度はルーマニアにおける宗教学の構築過程について、以下の事柄を明らかにした。①ルーマニアにおける宗教学の構築は、1920年代にミルチャ・エリアーデがイタリアの宗教研究を受容し、導入したことが契機となっている。とりわけイタリア宗教史学派のラッファエーレ・ペッタッツォーニおよびエルネスト・デ・マルティーノ、神秘主義研究者のヴィットリオ・マッキオロ、東洋学者のG・トィッチらとの学的連関は極めて重要である。②エリアーデは、R・ペッタッツォーニの宗教史学を受容しようと努める一方で、「祖型」「聖なるもの」などに代表される超歴史的概念に基づく方法論を『宗教学概論』において提示した。当書の評価をめぐり、宗教の歴史性を重視するペッタッツォーニとの方法論的相違が明らかになった。③エリアーデは、宗教体験を手掛かりに宗教の普遍的な形式を解明しようとするV・マッキオロの神秘主義研究も積極的に受容しようとした。マッキオロとの学的連関は、エリアーデが宗教現象学に受容する基盤となった可能性が想定される。 本研究では、上記研究者間の書簡集および書評論文を主な資料とした。とりわけエリアーデとペッタッツォーニの往復書簡については、研究資料として翻訳の作成を進めている。上記の成果より、宗教史学と宗教現象学の構築過程および学的連関を、ドイツやフランスにおける「生の哲学」の流行などを視野に入れたより広範な領域において対象化することが可能になった。現在までその萌芽的な研究を進めており、論文を作成中である。
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