研究課題/領域番号 |
16H07156
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研究機関 | 敬愛大学 |
研究代表者 |
佐藤 邦政 敬愛大学, 国際学部, 講師 (50781100)
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研究期間 (年度) |
2016-08-26 – 2018-03-31
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キーワード | 知的自律性 / ヴァルネラビリティ / 持続的関心 / 探求 / 英語教育 / 認識論 / 教育哲学 |
研究実績の概要 |
1.2016年度の具体的な研究内容 知的自律性(intellectual autonomy)に関する理論面及び実践面の研究について、以下の4点を明らかにした。 (1)知的自律性に関する先行研究の検討を通じて、社会認識論と徳認識論において知的自律性が再検討されていることを明らかにした。(2)代表的な先行理論として、現代認識論者Elizabeth Fricker及びLinda Zagzebskiによるアプローチを検討し、その長所と問題点を明確にした。(3)知的自律性についての独自なアプローチを考えることができた。具体的には、知的探求の文脈に着目し、知的自律性を認識論的ヴァルネラビリティ(epistemic vulnerability)や持続的知的関心(sustained intellectual interest)との関係の中で論じ、私たちが認識論的にヴァルネラブルな存在でありながらも知的関心を失わず、可塑的な計画(plastic plan)を立てながら探求に関わり続ける点を明確にした。(4)理論研究の成果を踏まえながら、中央教育研究所の鳥飼玖美子教授の英語教育プロジェクトに参加させて頂き、英語教育における知的自律性の育成理念について検討した論文を報告した。 2.意義 (1)日本では研究されていない、知識獲得や深い理解を目指す知的実践での自律性について、その研究背景及び代表的な先行理論について見通しを与えるサーヴェイ研究ができた。(2)オクラホマ大学でのLinda Zagzebski教授との議論などを通じて、知的自律性に関する先行研究では焦点が当てられていないが重要と考えられる、探求の舵取りという文脈での知的自律性の本質について着想し、国内外における既存の研究にない独自の論点を明確にした論文を作成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.2016年度の研究計画 知的自律性の理論面及び実践面について、以下の4点を達成することを予定にしていた。(1)知的自律性についての関連文献の検討を通じて、知識獲得を扱う知的領域において自律性という概念が導入される背景を明らかにする。(2)知的自律性についての代表的理論の長所と問題点を明確にする。(3)先行理論に対する批判的評価を踏まえて、知的自律性についての新たなアプローチの提示する。(4)英語教育やクリティカル・シンキング教育など、関連する教育実践についての先行研究状況を調査し、知的自律性の育成という教育理念の重要性と意義を検討する準備をする。 2.研究の進捗状況に対する自己評価の理由 理論面に関わる(1), (2), (3)について、達成することができた。とくに、(3)「知的自律性についての独自のアプローチ」に関しては、「研究実績の概要」で詳述したように、2016年9月及び2017年2月のオクラホマ大学での海外研究によってLinda Zagzebski教授などと議論をする機会を得ることで、新しい独自の発想を得ることができた。また、その発想を基に仕上げた論文に関して、オクラホマ大学でのEpistemology Conferenceや2017年度第9回応用哲学会で研究発表をし、多くのフィードバックを得ることができ、良い感触を得ることができた。 実践面に関わる(4)について、英語教育との関連で知的自律性を検討し、その論文を発表する機会を得た。そのため、目標をおおむね、達成することができた。 以上のことから、これまでの研究は、当初の計画通りに進んでいると判断することができる。
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今後の研究の推進方策 |
1.2017年度の知的自律性についての理論研究 現在、論文を専門雑誌に投稿中であり、夏前には査読結果が判明すると予想される。論文は、必ずしも一度でアクセプトされるとは限らないため、当初の研究計画の通り、8月にエジンバラ大学のDuncan Pritchard教授のもとに赴き、2週間程度滞在し、論文内容の正確性や、独自の論点のさらなる明確化を目指す。その成果を踏まえて、再度、返却された論文を修正し、関連雑誌に再投稿などする。この作業を繰り返し、当初の予定通り、今年度中に関連雑誌に論文を掲載することを目標とする。 2.2017年度の実践研究 今年度は、英語教育とクリティカル・シンキング教育に焦点を絞る。そうすることで、英語教育とクリティカル・シンキング教育という具体的な教育実践に沿った知的自律性の育成の目標とその意義について検討する。可能であれば、知的自律性の育成の実現に向けた具体的な方法論まで検討する。具体的には、以下の(1), (2)に従事する。 (1)英語教育に関しては、昨年度から参加させて頂いている、中央教育研究所の鳥飼玖美子教授の英語プロジェクト「自律した学習者を育てる英語教育の探求」に引き続き参加し、英語教育の専門家とともに知的自律性について討議する機会をもつ。(2)クリティカル・シンキング教育に関しては、11月にクリティカル・シンキング研究で世界的に著名なHarvey Siegel教授を日本に招へいする予定があるため、その時期までにクリティカル・シンキング教育における知的自律性の育成に関する資料を準備する。その後、クリティカル・シンキングに関心をもつ教育実践に関わる先生方や研究者と討議する機会を得ることで、クリティカル・シンキング教育における知的自律性についての私自身の考えをまとめる。可能であれば、今年度中に論文を作成し、関連雑誌に投稿する。
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