知的自律性(intellectual autonomy)の理論面および実践面について、以下の内容を明らかにした。理論面では、まず、社会認識論者Elizabeth Frickerによる社会認識論的アプローチと、徳認識論者Linda Zagzebskiによる徳認識論的アプローチを批判的に検討した。次に、それら二つの理論で十分には焦点を当てて検討されていない、個人相互の問答における他者への応答責任の観点から知的自律性について捉え直した。その成果は、日本哲学会の海外誌にあたるJournal of the Philosophical Association of Japan Vol.2に研究論文として掲載された。本論文で展開した、知的自律性についての責任主義的徳認識論的アプローチは、今後、問答という認識活動の社会認識論研究につながる成果であると考えられる。 知的自律性の実践面についての研究では、今日の社会における知的自律性の育成という教育理念の内実と意義を検討した。現代は、人種、民族、ジェンダー、身体的・精神的特徴、文化、宗教などの異なる他者との共生社会であり、そのため、多様な考えを認め合う社会である。本研究では、認識的多様性の社会は「何でもあり」を肯定することではなく、不正義を原因として一部の人々が知識の獲得や生産から不当に虐げられることなく、真理を追求する平等な機会が与えられる社会であることを明確にした。次に、このような社会での知的自律性の育成では、個人の批判的思考だけではなく、他者との問答を通じた固定観念の解きほぐしの能力の育成が必要になることを明らかにした。また、中央教育研究所の英語教育プロジェクト「自律した学習者を育てる英語教育の探求」に参加し、英語教育における知的自律性の育成のための具体的な教育方法について検討した。
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