研究課題/領域番号 |
16H07157
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研究機関 | 聖徳大学 |
研究代表者 |
北畑 彩子 聖徳大学, 児童学部, 助教 (40779881)
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研究期間 (年度) |
2016-08-26 – 2018-03-31
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キーワード | カナダ / 精神遅滞 / 知的障害 / 保護作業所 / 援助付き雇用 / 社会参加 / 経済的自立 |
研究実績の概要 |
本研究は、マイノリティーの人権保護意識が高いカナダにおいて 、障害者組織が、障害者の経済的自立に向けていかなる活動を展開し、また社会との調整を図ったのかを明らかにすることを目的とする。平成28年度は、次の研究作業を遂行した。 1.知的障害者の支援組織であるカナダ精神遅滞協会(以下,CAMR)が、20世紀後半に知的障害者(精神遅滞者)の経済的自立を図るため、いかなる活動を展開し、どのような課題に直面したのかについて、カナダ・オンタリオ州にて、当該組織のキーパーソン3名に聞き取り調査を行うと共に、関連資料を収集した。併せて、カナダ・マニトバ州にて、平成29年度に研究対象とする肢体不自由者の権利擁護組織に関連する資料も収集した。 2.上記1のCAMRに関わる調査結果をとりまとめ、さらに日本における同様の組織と比較し考察したものを学会にて発表し、ディスカッションを行なった。 3.上記2のディスカッションの内容を踏まえ、学会誌に投稿するための論文の原稿を執筆し、英語翻訳を行なった。 以上の作業を通じて、次のことが明らかになった。CAMRは1960年代から70年代にかけて、CAMRに属する地域組織が運営する保護作業所において、競争的雇用に向けた訓練が整備されるよう多額の投資を行なった。さらにCAMRは、先進的な知見を組織に取り入れようと、アメリカ合衆国の著名な専門家を研究員として招聘する。彼の影響を受けた地域組織の会員の一部は、1980年代半ばから90年代に精神遅滞者の社会参加と経済的自立を目的として、援助付き雇用の普及を図る。しかしながら、オンタリオ州トロント市においては様々な立場からの反対があり、その成果は限定的であった。CAMRが掲げるヴィジョンは先駆的であったが、カナダの広大な国土の中で多様な地域事情を有する各地域に対して、一律に同じヴィジョンの具現化を求めることには限界があった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度は計画通り、夏季休暇を利用してカナダ現地に赴き、調査を行い、その結果をとりまとめることができた。当初は資料収集のみの予定であったが、研究対象組織との交渉が順調に進み、キーパーソンに聞き取り調査を行うことができたため、想定を上回る豊富な質と量の情報を得ることができた。これらの情報を活かし、さらにカナダの特徴をより鮮明にすることを目的として、日本の組織との比較の視点も取り入れることとした。こうした追加作業により、学会誌への論文の投稿がやや遅れることになったが、平成29年度初頭には、投稿できる見通しである。
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今後の研究の推進方策 |
研究実施の最終年度となる平成29年度は、第一に、肢体不自由者の権利擁護組織、障害者州組織連合を研究対象として、その活動を検証する。第二に、同組織の活動と平成28年度に検証した、カナダ精神遅滞協会の活動とを比較検討し、障害者の経済的自立を促進するための諸条件について明らかにする。具体的な研究作業は、以下の通りである。 ①資料の分析・考察:平成28年度の現地調査の際に入手した、障害者州組織連合の活動に関する資料の分析及び考察を進める。 ②研究の妥当性検討:①の分析結果と考察を学会にて発表し、ディスカッションを行う。 ③現地調査:カナダ・マニトバ州及びオンタリオ州において、障害者州組織連合の活動に関する追加資料を収集する。 ④研究成果の発表:カナダ精神遅滞協会と障害者州組織連合の活動の比較検討し、得られた知見を論文としてとりまとめ、国内の学会誌へ投稿する。
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