平成29年度は、短期間の二重課題トレーニングが皮質脊髄路の興奮性ならびに皮質抑制性に及ぼす影響を検討した。参加者には2週間のうち計5回実験室に来室してもらい、1回の来室で1)安静状態(Rest条件)ならびに認知課題のみを行う条件(Calc条件)、2)最大随意筋収縮の10%または30%での運動課題(把持課題)のみを行う単一課題条件(ST条件)、3)運動課題と認知課題を同時に遂行する二重課題条件(DT条件)をランダムに行ってもらった。それぞれの課題において、左運動野(M1)をTMSで刺激し、右手第一背側骨間筋(FDI)、橈側手根屈筋(FCR)ならび橈側手根伸筋(ECR)からMEPならびにCSPを記録した。実験参加者には2週間で計5回、上述の課題を行ってもらったが、実験日と実験日の間は1~2日の間隔を空けて行った。 その結果、以下の知見を得た。1)ST条件とDT条件におけるTMS前100 msのbEMG面積(% MVC)は短期間のトレーニングの影響を受けなかったこと、2)短期間のトレーニングにより、皮質脊髄路の興奮性は増大し、特にDT条件でその変化が大きかったこと、3)短期間のトレーニングによってCSP durationが短縮することが認められ、その変化は、ST条件よりDT条件での変化が大きかったこと、4)MEP振幅は、トレーニング後半での増大が見られたが、CSP durationはトレーニング前半から短縮したこと。 短期間のトレーニングは、特にDT条件での皮質脊髄路の興奮性の増大と皮質抑制性の脱抑制現象を引き起こし、脱抑制現象はトレーニング前半から認められた。このことから短期間のトレーニングによって二重課題遂行中に皮質脊髄路の興奮性が低下するという運動出力の干渉を克服するために皮質抑制性を減弱させていることが考えられる。
|