本研究は、アンデス牧民社会における土地利用の変化と国家における「先住民共同体」の今日的意味を明らかにすることを目的としている。本年度は、研究対象の牧民共同体でフィールドワークを実施し、実測データをもとに放牧地区画の作成・分析を行い、土地利用の変化と問題について考察した。 具体的には、8~9月にかけての約4週間で現地調査を実施し、共同体内の牧草地範囲の実測をハンディGPSを使用して行った。様々な制約により実測できたのは3区画のみであったが、実測データを地図上にプロットしてデータ化した結果、区画面積に明らかな差異があることを定量的データとして示すことができた。 さらに、区画の境界に対する認識、土地の再区分問題について、共同体および牧畜という生業に対する考えについて、聞き取り調査を行った。20年前に行われた共同体の土地区分について、面積だけではなく区画の割り当て方法にも依然として不満が残っていること、合意されたはずの境界線を「慣習」を理由に越境する場合があり、区画の境界をめぐる軋轢が存在することを確認した。また、生業の基盤となる牧草地を「自身の区画」として持たない若者世代の不満が、再区分問題へとつながったと考えられる。20年前の決定・記録が正式なものであるのかについても意見が分かれており、これは先住民共同体の土地売買とも絡む複雑な問題であることが明らかとなった。 現地調査を含む研究成果のうち、牧草地利用の変化と区画の認識については学会発表を予定している。また、来年度に刊行される学術書と学術雑誌においても論文のかたちで発表予定である。
|