研究課題/領域番号 |
16H07162
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研究機関 | 青山学院大学 |
研究代表者 |
望月 貴博 青山学院大学, 理工学部, 助教 (40783387)
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研究期間 (年度) |
2016-08-26 – 2018-03-31
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キーワード | アミノ酸輸送体 / リン酸化 / 出芽酵母 |
研究実績の概要 |
アミノ酸輸送体によるアミノ酸取り込みの失陥は、病態や成長障害の原因の一つであり、治療法や予防策の確立が求められている。そのため、アミノ酸輸送体の基質取り込みや分解の制御機構の解明は極めて重要である。本課題では、出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeの低親和性トリプトファン輸送体Tat1をモデルとして、リン酸化がアミノ酸輸送体の基質取り込みと分解制御を担っていることを明らかにし、様々なアミノ酸輸送体の多様な基質特異性と分解の制御機構を解明する基盤の構築を目指し、研究を行っている。 本年度の研究では、Tat1のリン酸化部位を同定するため、Tat1のN末端側にGSTを融合させたGST-TAT1発現プラスミドを酵母に導入後、グルタチオンカラムでTat1を大量に精製し、質量分析を行う予定であった。しかし、質量分析を行うには不十分な量のTat1しか精製できなかったため、Saccharomyces Genome Databaseでリン酸化すると予想されている部位にアラニン変異を導入し、低分子量側へのTat1のバンドシフトによってリン酸化部位を一部同定した。 次に約80のキナーゼ遺伝子欠損株に野生型Tat1発現プラスミドを導入し、低分子量側へのバンドシフトによって、Tat1のリン酸化を担うキナーゼの同定を試みた。その結果、Tat1のリン酸化を担うキナーゼを複数得ることができた。当研究室では、Tat1の既知リン酸化部位を全てアラニンに置換すると分解が抑制されることを明らかにしている。そこで、得られたキナーゼ欠損株でもTat1の分解が抑制されるか検証したところ、分解は抑制されなかった。このことから、Tat1の定常状態のリン酸化と、分解に必要なリン酸化は異なるキナーゼによって担われていることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度はTat1を大量に精製し、質量分析によってTat1のリン酸化部位を同定することを目標にしていたが、不十分な量のTat1しか精製できず質量分析を行うことができなかった。そのため、データベース上に登録されている既知リン酸化部位にアラニン変異を導入し、低分子量側へのTat1のバンドシフトを検証することでリン酸化部位を一部同定した。また、既知リン酸化部位を全てアラニン置換した変異型Tat1は、脱リン酸化処理した野生型Tat1と比較すると分子量がわずかに大きかった。つまり、データベース上に登録されている部位以外もリン酸化されていることが示唆され、やはり質量分析を行う必要がある。トリチウムアミノ酸を用いた取り込み活性評価も行う予定だったが、測定条件が定まらず十分な検証が行えていない。一方、当初予定していなかったがキナーゼ欠損株に野生型Tat1発現プラスミドを導入し、低分子量側へのTat1のバンドシフトを検証することで、Tat1のリン酸化を担うキナーゼの同定を試みた。その結果、キナーゼの候補遺伝子を複数得ることができた。以上のように、本年度予定していた実験は遅れているが、来年度行う予定だった実験を一部行うことができたため、達成度はやや遅れていると言える。
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今後の研究の推進方策 |
特に集中して行う課題は、Tat1を精製し、質量分析を行うことである。現在問題となっている点は、精製したTat1の量が少ないことであるため、細胞数を増やすことでTat1の回収量を増やしたいと考えている。また、界面活性剤をさらに複数検討することで回収効率を上げる。質量分析によってリン酸化部位が特定できたならば、その部位にアラニンもしくはアスパラギン酸変異を導入し、トリチウムアミノ酸を用いた取り込み活性評価を行う。これらによって、リン酸化がアミノ酸輸送体の基質取り込みを制御している可能性を検証する。 Tat1のリン酸化と分解制御の関係性については、リン酸化部位を変異したTat1とアレスチン様タンパク質の相互作用を免疫沈降法もしくはイーストツーハイブリッドシステムで明らかにする。さらにキナーゼ遺伝子欠損株に野生型Tat1発現プラスミドを導入し、Tat1の分解が抑制される欠損株を得ることで、Tat1の分解に必要なキナーゼを同定する。これらによってリン酸化がアミノ酸輸送体の分解を制御している可能性を検証する。 見出された新規知見は積極的に学会発表を行うとともに、論文の投稿準備を進めていく。
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