本研究では労働市場におけるサーチ摩擦に伴う経済厚生の損失についての分析を行う。平成28年度は労働市場の標準的なサーチ・マッチング・モデルを用いて、経済厚生最大化の条件が成立しない状況を想定し、その下でどの程度経済厚生が損失しているかについて分析を行った。手法としては、サーチ・マッチング・モデルによる労働市場のマクロ定量分析の基本文献の枠組みを採用し、米国や台湾の統計データを用いた先行研究を参照して様々なパラメータの組み合わせの下で数値計算を行った。 この基本文献の枠組みにおいては、労働者の賃金交渉力のパラメータがある特定の値をとるときに経済厚生最大化の条件が満たされることが知られているが、本研究では賃金交渉力のパラメータに様々な値を仮定して計算を行い、その結果、同パラメータ値の広い範囲で損失が比較的軽微であることが明らかになった。また、様々なパラメータの組み合わせによる計算結果を比較し、さらにモデルの定性的な性質を調べることを通じて理論的な考察も行い、モデルのどのパラメータが重要な役割を果たしているのかという点について検討を行った。 研究結果について、"The Welfare Consequences of a Quantitative Search and Matching Approach to the Labor Market"という標題でDSGEコンファランス(愛媛大学)、東北大学、National Taiwan Universityといった国内外の学会・研究会の場で報告を行い、様々なコメントやフィードバックを得ることができた。
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