平成29年度は人的資本を対象として、企業における財務情報と非財務情報開示の関連性を意思決定有用性の観点から包括的に検討した。人的資本に関する情報開示を対象とした理由は、人的資本が企業の価値創造プロセスの源泉であると考えられるためである。当該情報がどのように開示されるべきなのか、また現実にはどのように開示されているのか、さらに規範と現実に差異があった場合にそれはなぜかについて、新規的な統計手法を含む総合的な分析を実施した。本研究には、これまでの研究成果と併せて体系的にまとめる作業も含まれる。成果物として"Research on Corporate Disclosure of Human Capital: An Analysis from the Decision-Usefulness Approach"というタイトルの論文を書き上げた。 特に平成29年度における研究成果は、人的資本会計研究の理論に以下二つの点で貢献する。第一に、これまでの先行研究における実証的な証拠の蓄積を体系化し、これまで私が実施した実証結果が新規的な証拠としてどういった形で理論を拡張しているのかを示した。第二に、これまで明示的に説明されてこなかった規範的なモデルを明示した上で、財務諸表における人的資本の取り扱いを検討し、それぞれの規範モデルにたった議論を整理した。この結果、財務情報と非財務情報の境界線に関して有益な示唆が得られた。 さらに、実務家や基準設定関係者に対して人的資本に関する財務情報や非財務情報開示がどうあるべきかに関する一案として、ガイドラインを提示した。詳細な開示内容についてはさらなる研究が必要ではあるが、理論や実証的な証拠に基づいて方向性を示したことは、実務に対しても重要な意義を持つ貢献である。
|