研究課題/領域番号 |
16H07171
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
西尾 宇広 慶應義塾大学, 商学部(日吉), 講師 (70781962)
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研究期間 (年度) |
2016-08-26 – 2018-03-31
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キーワード | 独文学 / 公共圏 / ハインリヒ・フォン・クライスト / ユルゲン・ハーバーマス / ジャーナリズム |
研究実績の概要 |
当初の研究計画に従い、本年度は、『ベルリン夕刊新聞』というジャーナリズム活動全体の内在的な論理と戦略性を解明することを目標に研究を進めた。具体的には、クライストが人間の発話行為について語る際にしばしば用いる「電気」の比喩に注目し、彼のジャーナリズム活動の理論的背景の一端を明らかにした。 クライストはいくつかのテクストにおいて、精神的世界を支配している不可視の法則性を物理法則との類比によって説明する、同時代の疑似科学的言説に接続しつつ、〈個人間の直接的な対話〉のなかに成立しているある種の法則性を「電気」の比喩によって説明しようと試みている。現代の科学的知見からは荒唐無稽とも映るこの発想は、しかし、クライストが自身のテクストにおいて企図した言語実践の内実を精査する上では、きわめて重要な参照点となる。本研究では、公共圏について語る際に「電気」の比喩が用いられている他の同時代言説(主として啓蒙主義の文筆家J・H・カンペの言説)を補助線に、個人的な発話行為に関するクライストのこの理論的モデルを、文書を介した〈集合的かつ媒介的なコミュニケーション過程〉にも適用可能なモデルへと拡張する可能性について検証し、その成果を、学会「ゲーテ自然科学の集い」の第49回総会におけるフォーラム「ハインリヒ・フォン・クライストにおける自然と公共性」において、「電気と言論 ― クライストにおけるジャーナリズムの詩学」という表題のもとに発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画に従い、『ベルリン夕刊新聞』に掲載されたテクストの精読・分析を中心に研究を進めた。一方、同じく当初予定していた関連する二次文献の調査(とりわけマスメディア研究を中心とする社会学の研究動向の調査)については、まだ完遂できていない。しかし、一次史料を検討する過程で、クライストのジャーナリズム活動を「電気」の比喩と関連づけて捉え直すという着想が得られたこと、および、そのために必要となる二次文献の調査(主として18世紀の自然科学に関する文献の調査)が実施できたことは、今後の研究の進展にとって大きな成果だったといえる。また、この成果を論文として発表することはかなわなかったが、学会発表によって他の研究者との直接的な議論の機会を得られたことで、次年度の論文化に向けた準備作業としてはすでに十分な収穫があり、総合的に見て研究は順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、これまでの研究によって得られた知見をさらに具体化させていく。すなわち、「電気」や「ジャーナリズム」をめぐる同時代の諸言説(とくにK・Ph・モーリッツやCh・M・ヴィーラントのテクストなど)を参照軸としながら、『ベルリン夕刊新聞』の分析を行うことで、クライストが自身の新聞事業で展開した公共圏構想の特質を明らかにする。また、本年度は十分に実施することができなかった社会学の最新の研究動向の調査を実施し、本研究の成果を、歴史的のみならず現代的な観点からも評価するための理論的展望を得る。
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