研究課題
TF-inducible ES細胞データ(ヒトTF 500遺伝子分)のin silicoスクリーニングによる尿細管細胞分化マスター制御因子の同定に関しては、我々は、腎臓遺伝子発現プロファイルデータとヒトES細胞バンクデータとの比較、解析を行い、腎臓への分化に重要な役割が推察される転写因子群66因子の同定に成功した。次に、修飾合成mRNA添加による、より洗練された高度なES細胞由来尿細管様細胞の樹立技術開発に関しては、今回新たに同定した66因子の転写因子のうち4因子をES細胞に導入することで腎前駆細胞マーカーであるSIX2, SALL1陽性細胞を95%以上の高効率で誘導することに成功した。上記の様に誘導した腎前駆細胞に、既に我々が同定している尿細管マスター転写因子(Xとする)に加え、3因子を導入することで、PAX8、LHX1陽性の細胞群を培養開始後わずか4日で得ることができた。これらは尿細管前駆細胞としてのポテンシャルを持った細胞群と考えられた。KSP陽性細胞の純化とそれらの3次元培養に関しては、新たに作成した抗原蛋白をラットに打ち込むことで抗ヒトKSP抗体の作成に成功した。しかし、上記で得られた尿細管前駆細胞を純化することなく低接着プレート上で3次元培養をすることで管腔構造をもつ尿細管細胞を得ることができたため、抗体での純化を行う必要はなかった。これまで尿細管前駆細胞を得るには2週間と比較的長期間の培養が必要であり、リプログラミングにより大幅にこの期間を短縮できたと言える。
2: おおむね順調に進展している
①TF-inducible ES細胞データ(ヒトTF 500遺伝子分)のin silicoスクリーニングによる尿細管細胞分化マスター制御因子の同定②修飾合成mRNA添加による、より洗練された高度なES細胞由来尿細管様細胞の樹立技術開発③KSP陽性細胞の純化とそれらの3次元培養④TF-inducible ES細胞データと既存の肝細胞、尿細管細胞のトランスクリプトームデータを組み合わせたより高度なin silico解析によりhepatorenal reprogrammingに必須の転写因子の同定⑤修飾合成mRNA添加によるヒト肝細胞由来尿細管様細胞の樹立技術開発上記実験計画のうち、現在、①及び③の一部まで実験が進捗しており概ね順調と考えられる。また、当初は直接分化誘導により腎構成細胞を得る予定であったが、同定した転写因子群を組み合わせて導入することにより腎発生の系譜の即した形で段階的に分化誘導を行えることが明らかとなった。今後、新たに作成した抗ヒトKSP抗体の評価に加え、3次元培養にて得られた尿細管organoidの機能評価を行う。
尿細管細胞organoidの機能評価のため、薬剤投与下あるいは低酸素下での細胞障害性マーカーの確認を行うと共に、当初の目標であったヒト肝細胞からの直接分化誘導実験を遂行する予定である。
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