研究課題/領域番号 |
16H07179
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研究機関 | 実践女子大学 |
研究代表者 |
BRUNA LUKAS 実践女子大学, 文学部, 助教 (10780827)
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研究期間 (年度) |
2016-08-26 – 2018-03-31
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キーワード | 日本近代文学 / 比較文学 / 翻訳研究 |
研究実績の概要 |
当該年度は研究計画書に沿って研究を進め、以下の研究成果を発表した。 1.2016年6月18日(土)に開催された花袋研究学会第56回定期大会(東洋大学)で「「べいべい語」を話す浮浪者たち──二葉亭四迷、小栗風葉、田山花袋にみる「地方語」の使用・意義について」という題をつけて口頭発表を行った。本発表は、ゴーリキー作・二葉亭四迷訳「ふさぎの虫」、ゴーリキー作・小栗風葉訳「強き恋」、また比較対象として田山花袋作「帰国」を取り上げ、同時代の自然主義文学理論との関連性にも触れつつ、ゴーリキー翻訳における日本の方言の使用について分析・考察を行った。 2.2017年3月、「実践国文学」(第91号、p.36-53)に学術論文「浮浪者のことば――小栗風葉訳「強き恋」にみる〈書き換え〉の問題をめぐって」を発表した。本論文は1.の学会発表をふまえ、ゴーリキー作・小栗風葉訳「強き恋」における訳者による〈書き換え〉(最終場面の削除、日本の方言の導入)を分析し、二葉亭四迷による影響について指摘した。なお、本論文は、ゴーリキーの作品を対象としたものであるが、自然主義文学にみられる方言、もしくは「地方語」の使用という重要な問題について指摘し、この方面の研究の活発化に寄与するものであると申請者が考える。 3.2016年11月6日(日)に開催された2016年国際啄木学会盛岡大会(姫神ホール)で「自然の「自由」への憧憬、社会の「俗悪」への反逆──石川啄木「漂泊」にみるゴーリキー文学による感化」という題をつけて口頭発表を行った。本発表は、緻密なテキスト分析にもとづいて石川啄木の短編小説「漂泊」は、啄木が愛読していたゴーリキーの文学を強く意識して書かれたことを実証した。従来、啄木自身の放浪体験と古典文学の読書体験によって形成されたものとして位置づけられてきた啄木の「漂泊性」のもうひとつの原点は外国文学にあることを指摘した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度の研究計画および上記の研究実績を照らし合わせた結果、本研究は概ね順調に進展していると申請者が考える。なお、以下は、本研究において設定した三つの研究対象(ゴーリキー文学の受容、翻訳、影響)について詳しく述べる。 1.受容の問題 本研究の目的の一つは、20世紀前半の日本におけるゴーリキー文学の受容状況およびその変遷を明らかにすることである。平成28年度は、1920年代~1930年代の日本の新聞と文芸雑誌を中心に、同時代の資料の収集および分析を行った。 2.翻訳の問題 本研究は、受容状況の調査・分析にくわえて、ゴーリキーの文学作品を訳した代表的な翻訳を分析し、ゴーリキーの作品がどのようなかたちで日本の読者の手に提供されたのかについて考察を行う。平成28年度は、ゴーリキーの代表作「マーリワ」を訳した小栗風葉「強き恋」を分析し、その翻訳方法や翻訳表現について指摘した。なお、平成28年度には、ゴーリキーの短編「二十八人と一人」を翻案した白柳秀湖訳「畜生恋」を分析し、その結果を研究雑誌に発表することを予定していたが、本稿は現在執筆中、翌年度に『実践国文学』に発表する予定である。 3.影響の問題 本研究は、以上の受容状況および翻訳状況の調査を踏まえながら、ゴーリキーが日本近代文学に与えた影響について分析・考察を行うことを目的とする。平成28年度は、石川啄木の小説に着目し、啄木の短編小説「漂泊」においてはゴーリキーによる影響が明らかに表出されていることを明らかにし、啄木文学における「漂泊性」の原点について指摘した。なお、平成28年11月6日実施の国際啄木学会盛岡大会で申請者が行った口頭発表「自然の「自由」への憧憬、社会の「俗悪」への反逆──石川啄木「漂泊」にみるゴーリキー文学による感化」の内容は、国際啄木学会の委員会により評価され、本学会の若手研究助成に選ばれた。
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今後の研究の推進方策 |
1.受容の問題 平成28年度に調査を開始した新聞雑誌の調査・分析を進め、その結果の一部を平成29年度後半から『文藝と批評』において発表する。 2.翻訳の問題 論文「翻案「畜生恋」にみる白柳秀湖の政治的思想の表出」(仮名)を平成29年10月刊行予定の『実践国文学』(第92号)に発表する。本論文は、これまで白柳秀湖の創作に位置づけられてきた短編「畜生恋」を分析し、ゴーリキーの初期代表作「二十八人と一人」を翻案したものであることを明らかにする。 3.影響の問題 (A)平成29年6月3日~4日にソウルで開催される国際学会(8th East Asian Conference on Slavic and Eurasian Studies)で「Changing Perspectives: The Influence of the Russian Revolution on Japanese Literature」というタイトルをつけて口頭発表を行う。本発表は、1917年の二度のロシア革命に刺激されて勃興した日本プロレタリア文学と日本におけるゴーリキー文学の受容の変化について考察を行う。 (B)平成29年12月に行われる昭和文学会の研究集会で「小林多喜二・「超人思想」・ゴーリキー──姉妹作「女囚徒」と「最後のもの」の生成過程をめぐって」というタイトルをつけて口頭発表を行う。本発表は、初期作品「女囚徒」と「最後のもの」を対象として、小林多喜二は作家としての出発期においてゴーリキーの〈浮浪者もの〉によって影響されたことを明らかにする。なお、本発表を加筆・訂正し、『昭和文学』に発表する予定である。 (C)2016年国際啄木学会盛岡大会での口頭発表「自然の「自由」への憧憬、社会の「俗悪」への反逆──石川啄木「漂泊」にみるゴーリキー文学による感化」を加筆訂正し、「日本近代文学」に発表する(現在審査中)。
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