本研究は、主に明治末期・大正期・昭和初期の日本近代文学におけるロシア作家マキシム・ゴーリキーの受容、翻訳および影響について分析・考察を行ってきた。当該年度においては、以下の研究成果を発表し、国内外の学界に対して発信した。 ① 明治期ののゴーリキー ―― 日露戦後の自然主義文壇においてゴーリキーの作品は大いに注目され、その影響下で、ゴーリキーが繰り返し描いた〈浮浪者〉を髣髴させる人物が登場する作品が数多く日本で発表されていることを明らかにし、それぞれの作品の分析を行った。石川啄木「漂泊」論を『日本近代文学』(2017年11月)に発表し、また、2018年3月にモスクワで開催されたM・ゴーリキー生誕150周年記念国際会議においては、石川啄木をはじめ日露戦後の日本文壇におけるゴーリキーの受容について発表した。 ② 大正期のゴーリキー ── マキシム・ゴーリキーの作品は大杉栄をはじめ大正期のアナーキストたちに強い刺激を与えた。2017年6月に韓国の中央大学にて開催された国際会議The 8th East Asian Conference on Conflict and Harmony in Eurasia in the 21 Century: Dynamics and Aestheticsにおいては、1917年ロシア革命後の日本文壇の思想的転換とゴーリキーを一生愛読した大正期作家宮地嘉六の立場について発表した。 ③ 昭和期のゴーリキー ── プロレタリア文学の作家たちは主にゴーリキーの社会主義小説を読み、高く評価していたと思われるが、2017年12月に専修大学で開催された昭和文学会第61回研究集会においては、初期の小林多喜二の作品はゴーリキーの社会主義小説以前の〈浮浪者もの〉に強く影響されていることを示した。
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