研究課題/領域番号 |
16H07187
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
濱村 憲佑 順天堂大学, 医学部, 助教 (70783306)
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研究期間 (年度) |
2016-08-26 – 2018-03-31
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キーワード | 妊娠高血圧症候群 / 疾患バイオマーカー / 多元的病態評価 / ターゲットプロテオミクス |
研究実績の概要 |
妊娠高血圧症候群の疾患バイオマーカー候補ペプチド「PDA071」に対する測定系確立を達成すべく、以下の課題[1]-[4]の順に研究を進め成果を得た。 [1]PDA071と安定同位体の合成:PDA071とその内部標準分子としてPDA071に安定同位体標識したペプチド (PDA071H28) を合成、各水溶液を作製した。 [2] PDA071のLC-MRM/MS測定条件の決定:PDA071溶液よりLC-MS/MS法を用いて数種のプリカーサー、プロダクトイオンを検出し、m/z値より各フラグメントイオンのアミノ酸配列を確認した。一方、PDA071H28も同様に検出、安定同位体の質量増加分を加え算出した理論m/z値と検出m/z値との一致を確認した。さらにペプチド濃度に比例しMS信号強度も上昇した。これより当該ペプチドはLC-MRM/MSで検出、定量可能と判断した。更にこのペプチドがヒト血清特異的なことも証明した。 [3]ヒト血清からのPDA071画分抽出法の確立:血清からの主要タンパク質除去とペプチド抽出の方法に酸/有機溶媒分別沈殿法を用いた。合成ペプチドを標準血清に添加し、各沈殿法で抽出後、LC-MSで測定した。すると酸分別沈殿法がより損出少なくペプチド抽出できた。しかし、同法でヒト血清を処理しても、元来血清に存在するPDA071は主要タンパク質と共に沈殿除去された。そこで新たな抽出法に熱変性法を用い、血清検体を種々の時間、温度、溶液条件で熱変性させ至適条件を決定した。結果、主要タンパク質よりペプチド分離する際には熱変性を用い、遊離ペプチドの再精製には酸分別沈殿法を採用することで血中PDA071が高濃度で抽出でき、LC-MRM/MSで定量可能となった。 [4]測定再現性の検討:確立した抽出法で同時採血した血清・血漿から同時・異時的にPDA071を抽出、内部標準を加え定量した。各測定値に有意な誤差はなく測定の安定性と再現性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度中の到達目標としていた「血清PDA071のLC-MRM/MSを用いた定量法の測定条件確立」はほぼ達成できた。PDA071はシステイン化を含むためやや特殊なペプチドであったが、高純度ペプチドの人工合成過程にトラブルはなかった。LC-MRM/MSにおけるイオン化、検出条件設定に関しても、この合成物質単体ではさほど特殊な設定条件が不必要だったこともあり、順調に遂行できた。ただし、血清からの効率的なペプチド抽出には最も多くの時間を要した。当初の予定では主要タンパク質除去と血清PDA071抽出法としてトリフルオロ酢酸を用いた酸分画沈殿法やアセトンを用いた有機溶媒分別沈殿法を用いると予想していたが、両法いずれを用いてもヒト血清中に元来存在するPDA071が血清中の主要タンパクと一緒に沈殿してしまい分離抽出には至らなかった。あらかじめ予測したトラブルの一つに本現象を挙げており、その解決法として今回採用した熱変性抽出法を含めた抽出法を検討していたため結果的に解決に至った。しかし、その至適条件の決定には様々な条件検討が必要となったため、この点においては当初の計画予定以上の日数を費やした。 加えて28年度は臨床検体収集も計画していた。多くの協力者の理解が得られ妊娠高血圧患者血清の採取は一定数得られたが1年間での患者症例数では不十分と判断した。ただし、この点は引き続き次年度も患者血清採取を行うことで対応できると考えている。 以上より、多少研究計画推進予定との差はあるものの、本研究全体の遅延や大幅な方針変更には至らないため、「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
前述のように、研究はおおむね計画通りに進行していることから、今後も引き続き当初の研究計画に沿って進めてゆく方針である。ただ、当初の計画には本測定法に対して新規定量法としての正確性を検証する具体的方法が言及されていなかった。そこで、臨床検体を用いた測定の際、以下の方法で追加検証を行うことにした。検証方法:得られた臨床検体のうちランダムに十数例を抽出し、血清PDA071濃度を本測定法で定量する。さらに同一検体を過去の報告で定量正確性が証明されているBLOTCHIP-MS法で再定量する。両者の定量結果を比較し、その相関を証明して定量正確性の評価とする。 上記方法で定量正確性が確認されたのち、改めて29年度の計画(①-③)に沿って研究を進める。①確立した本測定法を用いて採取した臨床多検体の血清PDA071濃度定量を行う。②PDA071以外の複数のバイオマーカー候補分子をELISA法などで定量する。③得られた結果を多変量解析することで病態評価精度の高い測定項目の組み合わせを判断する。これらにより「血清ペプチドPDA071定量法確立と分子マーカーとしての有用性の評価、他バイオマーカー候補分子と組み合わせた多次元評価法の有用性検証」という当研究目的の達成を目指す。 一方、昨年までの予定であった臨床検体採取期間を29年度も延長して行う。病態と血中ペプチドとの関連を検討するためにも可能な限り多くの臨床検体が必要であるため、引き続き検体採取、その臨床データ解析を上記研究と並行して行う。 さらには、これら研究成果に関して、論文作成や学会発表などを逐次行うことで広く社会へ発信することも併せて進めてゆく。
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