本研究は中世末期から近世初期に刊行されたキリシタン資料の内、その研究の主たる対象とされてきたイエズス会の刊行した文献と比較して、ドミニコ会の刊行した文献は、同時代の資料でありながら、その精密さ・規範の一貫性に於いてイエズス会文献に劣るという評価が定着している。しかし、実際には、未だその総体を総合的に把握する研究に乏しく、ドミニコ会文献に対するそのような評価がどれほど妥当かは、確かめられていなかった。本研究は、そのドミニコ会の刊行した文献を対象とし、自筆写本群・欧州内刊行物群の確認を行い、資料性の検討とその有効性の検証を行うことを主たる目的としたものであった。 実際に、スペイン国立図書館や大英図書館など、欧州の図書館・文書館などに所蔵されているドミニコ会文献を確認し、本文整定が行われて来なかったフアン・デ・ロス・アンヘレス『ロザリオの経』を始めとして、多くのドミニコ会文献の本文を再構し、それらの成立事情などの資料性に関する論考を行った。また、フアン・デ・ロス・アンヘレスやディエゴ・コリャードの記した日本語資料の本文の全てを電子データ化し、計量的に本文を扱うことを可能にする環境を整え、それを用いた考察も合わせて行った。これらの成果を、国際会議10th International Conference of Missionary Linguisticsなどでの口頭発表や、『日本近代語研究6』といった論文集での論文公表という形で公開した。
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