本研究の目的は、モロッコとヨルダンを事例として、「如何なるメカニズムでアラブ君主制が安定を維持しているのか」という問いを考察することである。その際、両国において「名目的」政権交代を可能とする選挙と議会制度に注目する。具体的には、モロッコを事例としたこれまでの研究で提示した「与党・野党のローテーション制」モデル(時代状況に応じて、支配体制が与党と野党を入れ替え、体制の安定維持を図ること)を、ヨルダンとの比較から精緻化することを目指した。 平成28年度に行った研究で、本研究課題の当初の目的であったヨルダンの事例研究を通じた「与党・野党のローテーション制」モデルの妥当性の検討に関しては、ヨルダンの事例では同モデルの適用が困難であることがわかった。ヨルダンにおいては、1957年から92年まで政党活動がわたって禁止されており、またその後の選挙でも、当選者に占める無所属議員の割合が非常に高いためである。そのため、モロッコの事例から提示した「与党・野党のローテーション制」を可能とする条件は、ヨルダンでは成り立たないことが明らかになった。 こうした成果を踏まえ、平成29年度には主に、「与党・野党のローテーション制」モデルの修正を目指した。その際、両国の議会政治において主要なアクターであるイスラーム主義政党に注目し、それらと体制との関係を、「イスラームの政治的利用をめぐる相克」という視点から分析を行った。「与党・野党のローテーション制」の代替となるモデルの構築には至らなかったため、今後はイスラーム主義組織に注目した研究から得られた知見を更に深め、両国の安定性を説明する新たなモデルの構築を目指す。
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