本研究では、婚姻という平安朝物語最大のテーマに着目することで、各作品の虚構の方法を明らかにすることを目的としている。その際、まずは史料の精査を行うことで当時の婚姻慣習の実態を把握することを目指し、次にその成果を踏まえて作品の精読を行うことで新たな読みを提示することを目指している。 前者の史料精査に関しては、本年度は主に「婿取婚」の観点からの調査を進めた。まずは前年度から引き続き『江家次第』を中心とした儀式書の記述を整理することで、当時の婚儀の概要とその変遷を把握しようと努めた。次に、『小右記』『御堂関白記』『権記』などの古記録における婚姻開始時の記事を調査することで、その実態について考察した。最終的には婚儀における夫家・妻家双方の役割を整理し、いわゆる「婿取婚」における「女の父親」の役割の重要性に着目した。 これを踏まえ、後者の作品精読作業を行った。本年度は主として『源氏物語』に描き出された婚姻儀礼の描写についての検討を進めたのだが、これは前年度に行った『落窪物語』を対象とした婚儀研究(「『落窪物語』における婚儀 ―道頼と落窪の君の結婚を中心に―」『国語と国文学』94-9号、2017年9月)の遂行過程で、改めて『源氏物語』を取り上げての研究の必要性を強く感じたため、新たに計画に加えたものである。具体的には、本年度に執筆した「『源氏物語』の婿取婚 ―婚儀における婿と舅の関係性―」(共著『源氏物語 煌めくことばの世界Ⅱ』所収)において、『源氏物語』の婚儀の特徴を指摘し、各婚儀の語られ方が極めて優れた物語の方法となっていること、さらにこの物語においてはいわゆる「婿取婚」の範疇外とも言えるあり方こそを枢要なものとしていることについて論じた。
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