研究課題/領域番号 |
16H07220
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研究機関 | 東京慈恵会医科大学 |
研究代表者 |
岡 直美 東京慈恵会医科大学, 医学部, 助教 (00704503)
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研究期間 (年度) |
2016-08-26 – 2018-03-31
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キーワード | うつ病 / ウイルス学 / ストレス脆弱性 / 精神疾患 / 抗うつ薬 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、ヒトヘルペスウイルス(HHV-)6が疲労やストレス依存的に再活性化する際に発現する潜伏感染タンパク質Small protein encoded by the intermediate stage transcript of HHV-6 (SITH-1) が、うつ病の発症に関与するメカニズムを解明することである。これまでの研究の結果、SITH-1発現マウスモデル(SITH-1マウス)はストレス脆弱性を示すことが判明しており、このストレス脆弱性メカニズムを明らかにすることで、うつ病になりやすい素因を特定できると考えている。 今回、SITH-1マウスのストレス応答反応に異常が生じているか検討するために、SITH-1マウスの脳からmRNAを抽出し、ストレス関連因子(コルチコトロピン放出ホルモン(CRH)、REDD1 、およびβ カテニン)の発現量を測定した。その結果、SITH-1マウスは対照マウスと比較してCRHの発現が高く、HPA axisが異常亢進していることが示唆された。さらに、REDD1はSITH-1マウスで有意に上昇していたが、βカテニンおよびβカテニンの安定性に関与するAxin2の発現は変わらなかった。脳の萎縮の有無を確認するために、脳組織切片のアポトーシス細胞を染色した結果、SITH-1マウスの嗅球においてアポトーシス細胞が有意に多かった。この結果は、うつ病患者の嗅球萎縮と一致している。さらに、海馬における神経新生を観察したところ、SITH-1マウスの海馬神経新生は有意に抑制されていた。この結果は、嗅球切除マウスで海馬の萎縮が観察されるという報告と同じ現象が起きていると考えられる。以上の結果から、SITH-1マウスは嗅球でアポトーシスが誘導され、海馬の神経新生が阻害されるためにHPA axisが異常亢進し、ストレス応答反応に異常が生じていたと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに、SITH-1マウスがうつ病様症状およびストレス脆弱性を呈することを見出し、その原因は嗅球におけるアポトーシスに端を発し、海馬の神経新生が阻害された結果HPA axisの異常亢進が起きるためであることが示唆された。さらに、嗅球におけるアポトーシスはアデノウイルス鼻腔投与による炎症とは異なるメカニズムで誘導されていることが明らかとなった。以上の研究成果は現在論文投稿中であるため、本課題はおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
当初の予定通り、抗SITH-1抗体陽性のうつ病患者の付帯情報から、治療に効果的であった抗うつ薬(SSRI, SNRI, ミルタザピン)を特定する。さらに、SITH-1マウスにおけるストレス脆弱性および今回の研究で明らかになったストレス応答反応の異常が、特定された抗うつ薬の投与で改善されるかどうかを検討し、ストレス脆弱性にクリティカルに関与する現象および効果的な抗うつ薬メカニズムを同定する予定である。
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