研究実績の概要 |
今年度の目標は要約すると以下を明らかにすることであった。(I) X(B)とY(B)をBを底空間とするトロピカル多様体とする. このとき申請者(Yamamoto, Tohoku Math. J.)がトーリック多様体の中にラグランジュ平均曲率流を構成したのと同様の方法で, Y(B)の中にラグランジュ平均曲率流を構成することができるか? (II) また, 構成できた場合, そのミラーであるY(B)の中にはどのようなフローができるか?これに関して結論は以下である. まず, 目標(I)に関して, 同様の方法はY(B)の中でも機能することが分かった. しかし, その方法でY(B)の中に構成されるラグランジュ部分多様体は全て特殊ラグランジュ部分多様体になる. 従って, 平均曲率流で動かない解が得られたことになる. これはトーリック多様体とトロピカル多様体Y(B)が似ているが違う, ということの現れである. このことが分かった後, 東京大学の二木昭人氏の紹介によりLeung-Yau-Zaslow (Adv. Theor. Math. Phys.)を読んだ. この論文ではY(B)の中の特殊ラグランジュ部分多様体で切断になっているものをFourier-Mukai変換するとX(B)上のdeformed Hermitian Yang Mills接続になることが説明されている. これは上記の目標(II)と関係が深い. そこで, この論文を詳しく精査することで, 特殊ラグランジュ部分多様体が「切断になっている」という仮定を外すことができた. 切断という条件を外すと得られるものはX(B)の複素部分多様体とその上のdeformed Hermitian Yang Mills接続になる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ラグランジュ平均曲率流の, トーリック多様体の場合と同様の構成方法が, トロピカル多様体でも同様に機能した点は予想通りで, 良い点であった. しかし, 得られたラグランジュ平均曲率流は実は特殊ラグランジュ部分多様体なので動いていない, ということは具体的な計算をして初めて判明することであり, これは予想外であった. 一方で, 研究を進めていく過程で, 特殊ラグランジュ部分多様体をFourier-Mukai変換するとdeformed Hermitian Yang-Mills接続が得られるという新しい知見も得られた. さらに, そのことを説明したLeung-Yau-Zaslowの論文の仮定を弱めることにも成功した.
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