研究課題/領域番号 |
16H07234
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
岡野 訓尚 岡山大学, 自然科学研究科, 助教 (80778209)
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研究期間 (年度) |
2016-08-26 – 2018-03-31
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キーワード | 制御理論 / ネットワーク化制御 / データレート限界 |
研究実績の概要 |
通信路を含む制御システム(ネットワーク化制御系)について,所望の制御性能を達成するために必要または十分な通信情報量を明らかにすることは,応用上も学問上も関心を集める問題である.本研究では制御系の安定化を目的として,この問題に取り組んだ.大きな特徴は,従来,制御対象の状態を推定する目的で利用されていなかった観測信号取得時刻の情報を利用する点にある.これによって観測信号そのものを表現するデータの情報量が少ない場合でも,より高精度に状態推定を行う手法を検討した.本年度は,問題の定式化と時刻情報を用いた制御の基礎的な検討を行った.具体的な成果は以下の2点である. 1:時刻情報を用いた状態推定手法を考案した.ある時刻の制御対象の状態とその時刻情報から,過去または未来の状態を推定・予測することは,制御対象のモデルを利用すれば可能である.しかし,ネットワーク化制御系ではシステム内に通信路が存在するために,通信遅延の影響でシステム内の機器間で統一された時刻を保持することが難しいことがある.センサと制御器の時刻にずれがあった場合,状態推定に誤差が生じ,最悪の場合不安定化を招く.そこで,どの程度の時刻情報のずれが許容可能か,について検討した.また,制御対象が複数のモードをもつ場合に,その時間発展の差を利用して時刻補正を行う手法を提案した. 2:制御対象のモデルに不確かさがある場合のネットワーク化制御について検討した.通信情報量に制約のあるシステムにおいて,モデルは状態推定を行う際の鍵となる.しかし,実際には実システムと完全に一致するモデルを得ることは不可能である.そこで,モデルに不確かさがある場合に,有限の情報量で状態推定と安定化を行う問題を考え,量子化の仕方を工夫することで必要な情報量を低減化できることを示した.とくに,入力側の不確かさも考慮した点は新しい.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ネットワーク化制御系において時刻情報を用いた制御を行う際に発生する,時刻情報の不確かさと,モデルの不確かさに起因する状態推定誤差の解析について成果をあげることができた.研究は主に理論的な検討と,計算機を用いた数値実験により行った.得られた成果については,関連する他の研究とともに学会誌に解説記事(共著)を発表し,ネットワーク化制御に関連する研究会において招待講演の形で成果の一部を発表した.これらの成果の一方で,2016年末頃に,本研究課題と強く関連する研究が他グループにより発表されたため,研究計画の修正を行う必要が生じた.今年度末から来年度前半にかけて,このグループによる成果を取り込み,申請者のアイディアと融合させて発展させる予定である.この作業のために,本年度予算の一部繰越を申請した.
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究では,進捗状況の報告で触れたように関連研究の成果を取り込むことと,本年度までに得られた成果を,より現実的な問題を扱えるよう拡張することに取り組む.具体的な課題は,以下のとおりである. 1:時刻情報を用いた状態推定手法について,実数値信号を用いた場合から量子化された信号を用いた場合へ発展させる.すでに基礎的な検討を行っているがさらに細部の検討を進める.また,実績の概要で示した,制御対象が複数のモードをもつ場合の成果について,本年度の成果ではあるクラスの制御対象に限定した議論を行っていたが,この仮定を緩和することを考える. 2:通信情報量に制約のある下での不確かなシステムの安定化について,確率的安定性の議論における不備が指摘されている.この点を修正する. 以上の検討を行い,成果を学術雑誌へ発表することを目指す.
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