研究課題/領域番号 |
16H07235
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
丸山 泰蔵 東京理科大学, 理工学部土木工学科, 助教 (90778177)
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研究期間 (年度) |
2016-08-26 – 2018-03-31
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キーワード | 弾性波 / 非線形超音波法 / 接触音響非線形性 / 高調波 / 分調波 / 境界要素法 / 調和バランス法 |
研究実績の概要 |
平成27年度までは,接触を考慮したき裂による弾性波散乱問題の非定常振動解析を行ってきた.しかしながら,時間領域解法では,接触音響非線形性を伴う共振現象の詳細を調べることが困難であった.そのため,接触音響非線形性による分調波発生現象の再現のみならず要因を詳しく調べられる方法の提案が必要である.そのことを踏まえ,平成28年度から非線形定常解析手法の開発に着手した. 非破壊検査の分野において,材料の非線形性を利用した非線形超音波法には検査可能範囲の拡大の可能性が期待されている.そこで,共振現象を積極的に用いた検査手法の開発のために,非線形散乱問題の定常解析を実行し,高調波・分調波の発生を伴う共振現象を詳しく調べることは重要である. 平成28年度に実施した研究の主な内容は,き裂による弾性波散乱問題に対する境界積分方程式をベースとして非線形定常解析を実行するための数値解法の開発である.非線形ダイナミクスの分野で用いられている調和バランス法と境界要素法を結合させることによって,連立非線形方程式を定式化し,それをHomotopy法によって数値的に解く手法を提案した.本研究では2次元空間の解析を対象としているため, 2次元無限領域における面外波動場,及び面内波動場に対して解析手法の開発を行った. 本研究内容に関しては国際会議2件,国内会議1件の報告を行った.また,国際会議に付随する査読付きプロシーディングスに論文を投稿中である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,接触条件を考慮したき裂による弾性波散乱問題に対する非線形定常解析手法の開発を行っている.計算コスト,精度,境界条件設定の自由度の観点から,境界積分方程式をベースとし,2次元面外波動問題,及び面内波動問題に対して定式化を行った.解析手法には調和バランス法と境界要素法を組み合わせた手法を用いた.境界条件の設定は,陽な形式で記述する必要があること,最終的に得られる連立非線形方程式のヤコビ行列の連続性が保持されることの2点に留意する必要がある.そのため,これらの条件を満足する適切な非線形ばねモデルを用いて,き裂面摩擦,及びき裂面の開閉を記述する境界条件式を導入した.また,最終的に得られる連立非線形方程式は適切な初期値を得ることが難しいため,Homotopy法によって求解を行った. 面外波動問題に対しては,数値シミュレーションを実行し従来の非定常解析結果と比較することによって手法の妥当性を検証した.単一の周波数成分を有する入射波を用いた場合,偶数次の高調波成分は解析的にキャンセルされ,奇数次の高調波のみが発生することが確認できた. 面内波動問題に対しても同様に,数値シミュレーション結果を従来の非定常解析結果と比較して提案手法の妥当性を示した.しかしながら,き裂面の開閉を考慮すると,き裂面摩擦のみを考慮した場合と比較してHomotopy法における解の収束が悪い場合がある.また,従来の非定常解析において分調波の発生が確認されていた条件において数値シミュレーションを実行し,本手法でもその発生が再現できることを確認した.分調波成分を考慮すると,定常解析における解の一意性が崩れ,Homotopyパスに分岐が生じることが確認できた.
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は2次元無限領域中の面外波動場,及び面内波動場における高調波発生現象の定常解析を行ってきた.解析結果は従来の非定常解析結果とよく一致し,その妥当性が示された.そのため,今後は提案手法を用いて接触音響非線形性を伴う共振現象を詳しく調べる必要がある.その一つが分調波発生現象であると現在考えており,Homotopyパスに生じる分岐を調べることによってアプローチしていく予定である.また,2次元半無限領域中の表面き裂による面内波動散乱問題に対して提案手法を拡張し,分調波発生現象を確認し詳細を調べる予定である. Homotopyパスの分岐を調べるにあたっては,連立非線形方程式の性質を調べることとなるため,連立非線形方程式と系の共振特性の関連性を調べ,そこから分調波発生現象に必要な要因を明らかにしてくことが重要である.また,得られた複数の解の内,安定・不安定の判別をしていく必要があると考えられる. 半無限領域への拡張において,必要となるGreen関数の計算,及び境界条件の設定には特に問題は無いと思われる.しかしながら,Homotopy法における解の収束性がどのように変化するかは不明であるため,調べる必要がある.
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