本研究では、国境をまたいで生産工程が分散立地されるようになることで貿易政策の役割や貿易協定の必要性がどのように異なってくるのかを明らかにすることを目指してきた。 具体的には、生産工程レベルでの企業の国際的な立地選択を内生化して最適関税政策を分析したうえで、貿易協定が果たせる役割について検討する、という一連の理論分析を行ってきた。そして、最終財のみの貿易を想定した従来の理論モデルから導かれる結果をベンチマークとして、企業活動の国際化とともに変容を遂げる貿易政策の役割や貿易協定の必要性を考察してきた。 本研究の関連文献の著者であり、本研究構想の原点を提供してくれたのは、貿易政策の応用理論研究の第一人者であるRobert Staiger教授(米国ダートマス大学)である。本年度は、Staiger教授を2度訪問し、密なディスカッションを通じてアドバイスを得て、理論分析を前進させることができた。 そして、これまで行ってきた理論分析の成果物として、"Trade Policy and Production Location with Cross-Border Unbundling"、"Trade Agreement with Cross-Border Unbundling"、"Rent-shifting Assembly Relocation Motive for Trade Policy Intervention"の3本の論文の初稿を完成させた。1本目の論文については、本年度、学会、セミナー等で報告させていただく機会に恵まれ、様々な研究者の方々から有益なコメントをいただくことができた。残り2本の論文についても今後研究報告の機会を模索するとともに、いずれの論文も未だ精緻化すべき点が多々残っているので、改訂を重ね、学術雑誌へ投稿していきたい。
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