現生魚類の大部分を占める硬骨魚に比べ、魚類を構成するもうひとつの大きなグループであり、海洋生態系の高次捕食者でもある軟骨魚類については、尿素を利用するユニークな浸透圧調節を行うことが知られているが、そのイオン調節機構はほとんどわかっていない。そこで、本研究では広塩性軟骨魚であるオオメジロザメを淡水・海水に馴致し、塩類細胞に発現するイオン輸送体の動態を調べることで、軟骨魚の浸透圧調節における鰓の役割を明らかにすることを目的とした。 本年度は、前年度に行った淡水・海水に馴致したオオメジロザメの鰓のRNA-seqから得られた発現遺伝子の解析データより、鰓でCa2+の輸送に関わると考えられたepithelial Ca2+ channel (ECaC)とplasma membrane Ca2+ ATPase (PMCA)に着目した。まず、これらの遺伝子について、RNA-seqで得られた配列情報をもとにcDNAクローニングを行い、部分配列を決定した。次に、淡水・海水に馴致したオオメジロザメの12組織サンプル(視床下部、脳下垂体、鰓、心房、心室、肝臓、筋肉、胃、螺旋腸、直腸、直腸腺、腎臓)を用い、real-time PCR法により発現量を比較した。その結果、ECaCの鰓での発現量は海水に比べ淡水で有意に高い値を示した。ここから、鰓に発現するECaCがオオメジロザメの淡水適応に重要であることが示唆された。最後にin situ hybridizationを行い、ECaC、PMCAのmRNAを発現する細胞が塩類細胞の分布に似ていることが示された。以上から、ECaC、PMCAは硬骨魚と同様に塩類細胞に発現し、特にECaCはオオメジロザメが淡水に適応する際に体液中のCa2+の調節に寄与することが示唆された。
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