冷凍食品の解凍復元性を向上させるためには、元来注目されてきた氷結晶の状態ではなく、凍結濃縮相に含まれる成分の低温での諸変化の理解が必要である。糖等の添加によって凍結濃縮層がガラス化しやすくなると、凍結速度を極めて早くした場合に、食品内の凍結濃縮が十分に進む前に系全体が凍結する可能性がある。すなわち、凍結速度と食品の劣化抑制の関係性は、従前の氷結晶の形状による影響だけではすべてを説明できなかったが、凍結濃縮層の濃縮度の変化によって説明できる可能性がある。この様な背景から、冷凍食品内の局所的な凍結濃縮の分布状態に凍結速度および糖添加が及ぼす影響を考察することを目的とし、タンパク質-糖混合食品ゲルの凍結濃縮層の直接観察を行なった。14%卵白―2.5%スクロース混合ゲルを調整し、極急速に凍結した試料と通常の緩慢凍結を行った試料を放射光X線CTによってin-situ測定を行った。CT撮像の際、SN比向上を狙い1ステップにつき10枚の多重露光を行なった。得られた緩慢凍結卵白ゲルの断層像では、氷部分とマトリクス部分のコントラストが大きく、マトリクスをはっきりと区別することが出来る画像を得た。その一方で、極急速凍結した卵白ゲルの断層像では氷晶部とマトリクス部のコントラストが弱く、はっきりとしなかった。更に断層像から得たX線線吸収係数の頻度分布を氷晶部とマトリクス部の2つのピークに分離した。その結果緩慢凍結試料のマトリクス部のピークトップは、極急速凍結試料のものと比較して、より高密度側に存在していた。以上より、極急速凍結試料では相分離が十分に進む前に凍結が完了している可能性が考えられる。急速凍結試料では、マトリクスの構造が微細なものとなっているため空間分解能の影響も考慮する必要があるが、本測定によって、凍結の遅速による凍結濃縮相の濃縮進行度の違いを評価できる可能性が示唆されたと考えられる。
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