研究課題/領域番号 |
16H07256
|
研究機関 | 明治学院大学 |
研究代表者 |
阿部 貴美子 明治学院大学, 社会学部, 研究員 (00783862)
|
研究期間 (年度) |
2016-08-26 – 2018-03-31
|
キーワード | 助産師 / 定着 / 農村社会 / ジェンダー / 保健人材 |
研究実績の概要 |
カンボジアでは、非常に高かった妊産婦死亡率が、近年、大きく低下した。それに貢献した政策の一つが、農村部も含めた全ての保健センター(HC)への助産師の配置である。妊産婦死亡率をさらに低下させるには、現在配置されている助産師よりも高い資格を持ち、緊急産科医療に対応できる、Secondary レベルの助産師が農村部に定着することが必要である。定着の外部環境には、経済成長による都市と農村の格差、出産が可能な民間病院の開設等の変化が生じ、妊産婦のニーズも変化しているとみられる。そこで、本研究は、農村部のHCへのSecondary レベルの助産師の定着に大きく影響している要因を探究した。日本の過去の妊産婦死亡率の低下の過程でも出産関連の制度や実態(中山 2001他)、社会経済が大きく変化し、農村へき地では助産師や「派遣保健婦」が活躍した(木村 2012;大嶺 2001他)ことから、これらの保健職の体験を参照した。 平成28年度(初年度)は、文献レビューから定着の影響要因の候補と考えられる事柄を引き出し、インタビューガイドを作成し、2種類のインタビューを実施した。キーインフォーマント(保健省の人事担当職員と農村部のHCの所長他。計17名)に半構造インタビュー、助産師による出産介助を受けた女性(8名)に深層インタビューを行った。 インタビューの分析からは、経済的報酬や職場の物理的環境に加え、助産師配置の制度やジェンダー、助産師の経験、妊産婦との関係、コミュニティからの認知も重要な影響要因であること、また、それらの重要性の違いも把握された。これらの要因は、過去の日本の農村へき地における助産師等の経験(中山 2001;木村 2012;大嶺 2001他)にも見出されるものであった。 インタビューの分析の過程と分析結果から、平成29年度(最終年)に行うSecondary レベルの助産師への深層インタビューのインタビューガイドを作成した(今後も追加検討する予定)。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、開始(平成28年8月下旬に交付内定)以降、本年度内の実施を計画した内容(以下のaからd)をほぼ計画した時期に実施した。a. 文献レビュー、b. 第一段階のインタビューのインタビュー・ガイド(キーインフォーマント・インタビュー、深層インタビュー)作成、c. 平成29年1月末から3週間、カンボジアのプノンペンと農村部で、上記2種類のインタビューを行った。キーインフォーマントに対して半構造インタビューを実施(15名)、保健センターで出産し、助産師の介助を受けた女性に対して深層インタビューを実施(8名)。現地調査に先立ち、日本国内在住の、近年カンボジアで実施された母子保健分野援助プロジェクトに参加した専門家にキーインフォーマント・インタビューを実施した(2名)。d. 平成29年3月末までに、インタビューの文字起こしとコーディング(分析ソフト使用)行い、分析。そこから定着に対する重大な影響要因を引き出した。さらに、影響要因について考察した。 これらの作業の過程で、平成29年度に実施を計画しているSecondaryレベルの助産師に対するインタビュー・ガイドの素案の一部が得られた。 上記cのキーインフォーマント・インタビューにおいて、インタビューを予定していた援助機関の職員1名が、日程の都合がつかず、インタビューが出来なかった。しかし、予定外に、その人以外の複数の援助機関の職員からインタビューができたため、計画時に戦略的に選定したキーインフォーマントの特性は、損なわれなかった。インタビュー出来なかった職員からは、平成29年度の現地調査(8月予定)においてインタビューする。助産師に対するインタビュー・ガイドは、現在、作成中である。 初年度の研究結果を学会(11月)発表するために抄録を書き、登録した。
|
今後の研究の推進方策 |
助産師への深層インタビューを、9月上旬を目途にカンボジアで実施できるように、解析結果を使ってインタビューガイドを作成中である。農村部でのインタビューの実施に必要な車輛借上げ等のロジスティクスの手配を、前年度の経験を生かして5月下旬に迅速に行う予定である。同時に、インタビュー対象の助産師の配置先などについて省レベルの担当者への問い合わせも行う予定である。インタビュー実施後の約2か月間で分析結果を出して、その後、研究成果を複数の学会(1件抄録登録済み、審査未了)と、学術論文、シンポジウムで発表する。
|