研究課題/領域番号 |
16H07258
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研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
溝口 聡 立教大学, 法学部, 助教 (60781937)
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研究期間 (年度) |
2016-08-26 – 2018-03-31
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キーワード | 国際政治 / アメリカ外交 / 冷戦 / 国際協力 / 沖縄占領 / 文化政策 |
研究実績の概要 |
本研究は、アメリカ占領期の琉球大学に対する教育政策に焦点を当て、戦後の沖縄高等教育政策における米琉球列島国民政府(USCAR)とアメリカ民間財団、高等教育機関の関係性を分析した。従来の研究は、USCARを沖縄占領政策の中心アクターに位置づけ、占領期の教育政策に関する分析を行ってきた。本研究は、軍将校だけで民主化を遂行することの限界を指摘し、アメリカ国内の高等教育機関や民間財団からの援助を積極的に活用した政・軍・学のネットワークの観点から、沖縄占領期の教育政策を再考した。 主な成果としては以下の点が挙げられる。まず、ロックフェラー・フォード両財団とUSCAR教育部の往来書簡を分析することで、両者の沖縄教育政策に関する基本的姿勢の違いや役割分担などを明らかにすることができた。例えば、軍が文化政策をアメリカ占領統治の政治目的に利用するため、近代的な建造物の建築を検討したのに対して、ロックフェラー財団はモミュメントのような建築物ではなく、学術支援などのソフトコンテンツに援助の重点を置いていた。フォード財団も文化教育政策が、露骨な政治介入と現地の人々に見なされないように、助成金の使い道を、軍事管理・縮小を推進する団体への支援や知識人の国際交流会議、世界各地の地域研究機関への支援に限定していた。 次にミシガン州立大学(MSU)とUSCARとの書簡のやり取りからもまた、教育政策に対する両者の根本的な理念の違いが、明らかとなった。USCARの主眼は、食糧不足の解消や統治に必要な人材の育成など占領政策の問題解決にあり、琉大の創設もこうした政策の一部であった。MSUは長期的な視点で高等教育政策を捉えており、琉大の大学院創設なども検討していた。 これらの研究結果の一部は、2016年10月の国際政治学会にて、「戦後文化政策と東アジア冷戦-1950年代アメリカ占領期の沖縄冷戦教育」の題目で、報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画書に従い、立教大学冬期長期休暇を利用し、12月に沖縄で、2月末から3月半ばまでは、ニューヨークとワシントンDCでの調査を行った。沖縄県立公文書館では、USCAR関連文書の内、教育政策に関する史料の収集を行った。また、同公文書館の所蔵するケネディとジョンソン政権期の日本ファイルやセントラルファイルも収集した。 ニューヨークでは、ロックフェラー公文書館に保管されている沖縄復興支援に関するフォード・ロックフェラー両財団の史料取集を行った。アーキビストからの助言もあり、当初予定していたロックフェラー財団が保管する琉球大学援助計画に関する史料収集に加え、ディビット・ロックフェラー3世やチャールズ・ファース文書など、アジア地域におけるアメリカ文化政策のキーパーソンの史料も多く集めることができた。 ワシントンDCでは、第二国立公文書館にて、国務省の対日文化政策に関する文書やアメリカ情報局の沖縄関連の史料を調査した。公文書館では、アメリカ文化外交を専門とする研究者と会談し、今後の研究に重要な史料の情報や方法論に関する意見交換も行った。 1950年代の対沖縄アメリカ文化外交に関する調査はおおよそ終了し、研究成果の一部は昨年11月の国際政治学会にて、口頭発表の形で公表した。現段階で留意すべきことは、史料の制約により、CIAの隠れ蓑であるアジア財団の文化政策という、政府・軍・民間財団と沖縄占領統治の関係性を、より明確にできる事例が立証できないため、若干の補足説明が必要となった点である。そのため、アジア財団に関する分析には一次史料の代わりに、CIAとアジア財団に関する複数の研究書を用いた。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、研究の射程をベトナム戦争への関与が本格化する1960年代後半まで伸ばし、沖縄におけるアメリカ文化外交の影響を分析する。研究方法論は、収集した史料に基づく実証研究をベースとして、ジェンダーやクラスなどの分析理論を用いて、アメリカと沖縄双方の占領に対する分析を行う。 資料の収集は、立教大学夏季長期休暇を利用し、8月から9月の間に行う予定である。史料の主な収集先は、ボストンのケネディ大統領図書館ならびにテキサス州オースティンのジョンソン大統領図書館である。両大統領図書館の史料の一部は、昨年の沖縄県立公文書館で既に収集しており、今年度の海外調査では、沖縄公文書館に所蔵されていない、エドウィン・ライシャワー、アレクシス・ジョンソン両大使の史料取集を中心に行う。 物品購入費は、冷戦期の文化外交政策関連ならびに冷戦期の軍産学複合体関連の書籍の購入に充てる。アメリカの歴史学会では近年、冷戦期の社会科学史に関する研究が盛んであり、Nick CullatherのThe Hungry Worldのような優れた研究書籍も多く出版されている。本研究は冷戦期の沖縄と第三世界のアメリカ占領・復興政策との比較的視点を取り入れるため、こうした先行研究も参照する。 研究の成果は、国内外の研究雑誌に投稿し、公表する予定である。既に論文を投稿したことのある「立教法学」やVirginia Review of Asian Studiesに加え、「国際政治」などにも投稿を予定している。人件費は、論文投稿の諸経費として計上されている。また、研究成果の一部は、ミシガン州立大学に提出する博士論文として、公開される。
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