2017年度も,2016年度同様,2つのフィールドを軸に研究を進めた.ひとつは,関東圏の診療所に協力いただき,家庭医療場面の診察場面の医療的相互行為場面にて記録したデータを分析した.もうひとつは,岩手県内の被災地における病院で既往症の患者の診察場面を撮影した.2011年の東日本大震災の津波以降,患者の心理的側面も含めた総合診療の必要性が高まっている.本研究は,二つの調査地での患者の主訴や医師による主訴の理解の仕方をコミュニケーション研究の観点から比較し,医療社会学的な貢献を提出することが見込まれる.2017年度は,以上のプログラムのもと,調査を続ける一方,論文を2本,国際学会での発表を1回おこなった. まず,医師が診察場面で診察結果を報告する際の手続きとして,通常の手続きにおける順序を反転させ,「良い結果である場合は結果を先取り的に言う」という技法を観察した.この技法が診察において患者に与える影響は,良い結果である場合に,結論を先に聞くことでその後の情報供与をスムーズに受け止められるという心理的効果であった. また調査のプロセスで,コミュニケーションを交わすうえで「視覚」を参与者がどのように扱っているかを理論的に研究する必要性が感じられた.それに基づき,海外雑誌において生態心理学と社会学の間で交わされた視覚についての論争をレビューし,理論を精緻化した. 最後に,震災においてボランティアと被災者の身体接触とジェンダーの関係性を分析した論文を執筆した.この知見からケアワークにおいて生じる参与者のジェンダーの問題化を扱う意義を明示した.
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