河川棲水生昆虫のオオシロカゲロウは地理的単為生殖種であり、地域個体群のほとんどは、両性生殖系統から成る両性個体群あるいは単為生殖系統から成る雌性個体群のいずれかのタイプである。しかし、福島県・阿武隈川および埼玉県・荒川の2つの河川水系においては、両性生殖系統と単為生殖系統の両系統が混在することが明らかになってきた。進化生物学において「両性生殖vs. 単為生殖」は永く議論されてきた課題であり、本種両系統の共存がいかにして成立しているのかを明らかにすることは、新たな知見となり得る。 本研究では、両性生殖系統-単為生殖系統個体の羽化および交尾行動の比較調査を実施し、両系統が同所的に生息する状況下において、両性生殖系統のオス個体は単為生殖メス個体と交尾しているのかを明らかにすることを目的とした。つまり、両性生殖系統のオス個体は単為生殖系統のメス個体と無駄な交尾をしているのか、あるいは、単為生殖系統のメス個体はオス個体の存在下では両性生殖しているのか、を明らかにする。 その結果、単為生殖系統メス個体は比較的早めの時間に羽化する一方で、両性生殖系統は遅れて羽化することが明らかになってきた。本種の羽化ステージは、非常に短く、長くとも1-2時間のうちに交尾・産卵し、死亡する。両系統の羽化時間のピークは、2時間ほどの差があり、単為生殖系統のメス個体の多くは未交尾の状態であった。両系統における単為生殖系統個体と両性生殖系統個体の同所的な生息状況下では、両系統間の干渉がもっとも生じにくい形で、羽化タイミングにシフトを引き起こしている可能性が示唆される。
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