研究課題/領域番号 |
16H07266
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
有元 誠 早稲田大学, 理工学術院, 次席研究員(研究院講師) (40467014)
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研究期間 (年度) |
2016-08-26 – 2018-03-31
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キーワード | X線CT / LSI / 低被ばく / 多色 / MPPC |
研究実績の概要 |
本研究で提唱するMPPC(Multi-Pixel Photon Counter)と高速シンチレータを組み合わせた画期的な低被ばくかつ多色X線CTシステムの基盤技術の開発を行った。特に、原理実証を行うための単素子ベースでの評価試験および、それに並列して複数素子アレーCTシステムの中核技術となるLSI開発を中心に進めた。 MPPC単素子での原理実証では、人体の軟部組織を模した水とアルコールのファントムのX線CT画像を取得し、従来型の内部信号増幅機能を持たないフォトダイオード方式との比較を行った。得られたコントラスト対ノイズ比から、MPPCを用いたフォトンカウンティング方式では、フォトダイオード方式に比べ200倍程度の低線量化を達成できることがわかった。さらに物質同定に有用なK吸収端イメージングを実施し、複数の物質の中から造影剤を模したヨウ素のみを抽出することに成功した。 これらの単素子実験で得られた基礎特性評価を元に、16系列MPPCアレーに対して高速アナログ・デジタル信号処理が可能なLSIの設計および開発を行った。MPPCはその検出器容量が大きいことから高速の信号処理が困難であるが、センサー信号が入力するアナログ回路段において、非常に低い入力インピーダンスをもつカレントコンベア回路を採用することで高速アナログ処理を実現した。これらアナログ回路設計に加え、高速にエネルギー情報を取得できる多段コンパレータを設計および実装した。さらにTSMCファウンドリの0.35ミクロンプロセスによるLSI試作器の製造を完了し、LSI単体での基礎特性評価を行い、正常に機能することを確認した。これらの結果により、MPPCアレーによる実践的なX線CTシステムの実現に向けた準備が整った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画では、本年度では多系列信号処理LSIの設計までを行うことを予定していたが、それに加えて試作LSIの製作および基礎特性評価まで完了することができた。これは(1)LSI回路の仕様を決定する単素子ベースでの実験がスムーズに進行し、回路仕様の検討および決定が迅速に進行したこと、(2)回路の考案をするにあたり、過去のMPPCを用いたPETシステムの回路技術を応用することで、当初の予想を上回る速度で実装回路の設計および検証が完了したことがあげられる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度で開発した16系列を有する高速信号処理LSIを用いて、MPPCアレーとシンチレータアレーを組み合わせたX線CTイメージングを進めていく。今回開発したLSIは、フォトンカウンティングCTに加え、従来型の電流積分CTによるイメージングも可能となっている。そこで以下の観点で研究を遂行する。 ①電流積分モードでのCTイメージングを実施し、MPPCとフォトダイオードの性能差を評価する。現在普及しているX線CT装置はフォトダイオードアレーを用いた電流積分型CTであるため、これを単純にMPPCアレーに置き換えた場合においてX線CTイメージングにもたらすインパクトを定量評価する。 ②フォトンカウンティング方式でのCTイメージングを実施し、低線量化の評価やK吸収端を利用した物質同定を行う。単素子とは異なり、16系列ごとにMPPCのゲインばらつきやLSI内部の回路特性のばらつきがあるため、これらをうまく補正していきながら、CTイメージを取得する。 ③現在の試作CTシステムを小型モジュール化する。現在は、16系列MPPCアレーに対し、LSIを含む読み出し回路のサイズは数倍となっている。将来的に100~1000ピクセル以上でのCTイメージングを行うためには、それらをコンパクトにまとめた小型化が必須である。そこでLSIの低温同時焼成セラミック化および小型モジュール用回路基板の開発を行う。
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