研究課題/領域番号 |
16H07275
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
天田 悠 早稲田大学, 法学学術院, 助教 (90779670)
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研究期間 (年度) |
2016-08-26 – 2018-03-31
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キーワード | 刑法 / 医事刑法 / 患者の承諾 / 被害者の承諾 / 治療行為 / ドイツ法 / スイス法 / オーストリア法 |
研究実績の概要 |
〔本研究の全体像〕 本研究は、治療行為の刑法的評価の問題(治療行為論)において不足している理論的基盤を構築するべく、特に「患者の承諾」に注目し、犯罪論一般の「被害者の承諾」と比較することで、その機能と限界を明らかにすることを目的とする。そのために本研究では、つぎのような計画で検討を進めることとした。まず、①従来検討が不十分であったスイス法の現況を明らかにし、わが国の理論構築への示唆を得る。つぎに、②ドイツ法における2つの「承諾」論、つまり、犯罪論一般で論じられる「被害者の承諾」論と、医療の個別問題としての「患者の承諾」論の共通点・相違点、およびその解釈論的帰結を明らかにする。そして、③上記の成果を総合し、ドイツ語圏刑法学の議論を比較法的に考察することで、わが国の議論の理論的空隙を明らかにし、それを埋めるための方法を探る。 〔平成28年度の研究内容〕 以上の研究計画のうち平成28年度は、①スイス法の分析に重点を置いた。本研究の特色のひとつは、永らく研究が停滞していたスイス法の議論を分析する点にある。スイス法は、ドイツ法の影響を受けつつも、ドイツとはまた異なる独自の理論を積み重ねてきた。スイス刑法の構造は、日本刑法のそれと通じる部分があり、比較法的にみて参照価値が高い。しかし、2002年の刑法典大改正後の議論は、わが国に十分に紹介すらされていない。スイス法との比較を分析軸に加えることで、各国の特徴がより鮮明になることが期待される。 そこで本年度は、スイス刑法14条の正当行為一般規定や、122条以下の傷害罪・暴行罪関連規定をめぐる議論を渉猟し、オーストリア法の議論とも対比しながら、スイス法の理論的到達点を明らかにし、わが国固有の理論構築への示唆を得た。この成果は、次年度以降に順次公表していく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
上記〔研究実績の概要〕で述べた研究のうち、①スイス法については、おおよその検討を終え、論文等として公表する準備を進めている。この意味で、平成28年度の最低限の目標は達成されたと評価できる。 しかし、上記②の検討につき、ドイツ法の概要はほぼ把握できたものの、2つの「承諾」論、つまり、犯罪論一般で論じられる「被害者の承諾」論と、医療の個別問題としての「患者の承諾」論の共通点・相違点、およびその解釈論的帰結を抽出する作業は、まだ十分とはいいがたい。しかも、この②の研究に従事する過程で、わが国の議論をもう一度丹念に検討する必要性が生じたことから、ドイツ法の理論的検討にあまり時間をかけることができなかった。この点も、研究が当初の予定より遅延した理由である。
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今後の研究の推進方策 |
上記〔研究実績の概要〕で述べた内容のうち、②と③の研究に取り組む。すなわち、ドイツ法の議論を分析し、そこからわが国にとって有益な比較法的知見を抽出し検討することで、わが国の議論への理論的接合を試みる。 より具体的には、まず②につき、主として2000年以降に公刊された学位論文、教授資格論文および雑誌論文等を渉猟するとともに、ドイツ法の現況を的確にフォローするためのインタビュー調査を実施する。これによってドイツ刑法の現状把握に努めるとともに、必要に応じて研究の方向性を修正する。 つぎに③につき、以上の分析から得られる比較法的成果を総合し、わが国固有の理論体系の構築を試みる。ここでは、ドイツ語圏刑法学の分析から得られる比較法的知見と、わが国における既存の理論的枠組みとの統合を試み、わが国オリジナルの「承諾」論体系を構築する。これらの成果は、平成30年度中にまとめて公表する予定である。
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