本研究の目的は、日本とヨーロッパの環境リスク規制を比較分析することで、規制内容に影響を与える要因を多角的に分析することである。環境リスク規制とは、環境や健康への悪影響が懸念されるものの科学的根拠が必ずしも明らかではない段階で問題をもたらしうる物質をどのように規制するか、という問題である。こうした環境リスク規制の内容に違いが生じる要因について、本研究では政治制度が規制者の権限に与える影響に着目する。そして、政治制度が規制内容に影響を与えるメカニズムを、日本とヨーロッパにおける大気汚染や化学物質規制といった複数の環境リスク規制政策の事例間比較分析を通じて明らかにすることを目指した。 本年度は分析の結果、規制者が被規制者さらに政策実施に対してどのような権限を有するのかによって、政策形成の過程に違いが生じることで、環境リスク規制の内容に違いが生じることが明らかになった。具体的には、規制者が被規制者に対して保護や発展させる役割を有しているか否か、さらに規制者が実施に対して責任や権限を有しているか、あるいはそれが部分的であるかによって、政策課題の設定やその政策過程の特徴に異なる影響を与える。規制者の権限は歴史的に形成された制度によって規定されている。こうした制度配置の違いが、規制者の権限を通じて異なる規制内容を形成するのである。こうした結果をまとめた成果は、単著として公刊した(早川有紀『環境リスク規制の比較政治学:日本とEUにおける化学物質政策』ミネルヴァ書房、2018年)。
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