研究課題/領域番号 |
16H07285
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
山本 桃子 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 助手 (20779110)
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研究期間 (年度) |
2016-08-26 – 2018-03-31
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キーワード | 博物館 / 学術標本 / 実物教授 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、博物館教育における包括的な実物教授(Object-based learning)の機能を、ロンドン大学(University College London、以下UCL)の学術標本展示の事例から明らかにすることである。 調査対象であるUCLはオックスフォード、ケンブリッジに次いでイギリスで3番目に歴史を誇る大学であり、同博物館には土地柄学生以外にも多くの来館者が訪れる。11の学部を擁する総合大学の膨大な学術標本の展示および教育的利用を考察し、実物教授の場として大学博物館を活用するための検討を行った。 本研究はこのような目的と調査対象を設定する2か年の研究であり、本報告はその初年度の研究成果を報告するものである。研究成果として、得られた実績は以下の通りである。 まず初年度の活動として、UCL学内の学術資料展示について以下の現地調査を行った。 学内オープンスペースThe Octagonにて実施されていた「Cabinets of Consequence」の展示を対象に、展示物と展示キャプションの内容を分析した。それにより、UCL内の3つの大学博物館、すなわち自然史、エジプト考古学、美術史を専門とする3館(以下常設館)の展示内容と、オープンスペースとして学生および来校者の目に触れるOctagonの展示内容の性質の違いが明らかになった。つまり、常設館では専門分野ごとに学術標本をテーマ別に展示し学生の博物館実習機会や学外者の学習機会を設けていたのに対し、期間および空間が限定されたOctagonでは特定のテーマに基づいて学術分野を横断した展示がなされていた。 今後の研究活動として、我が国の大学博物館の事例と比較するために国内大学博物館に関する追加的資料収集を行うとともに、UCLの博物館教育担当者へインタビュー調査を行い、研究成果としてまとめる予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
初年度の活動として、イギリスにおける博物館の教育的活用に関する先行研究等の文献収集と批判的検討を行うことができた。また、当初イギリスへの調査の実施は平成28年度に2度、資料収集目的とヒアリングをそれぞれ行う予定であったが、調査の進捗とイギリス国内の情勢によりヒアリングを平成29年度4月に延期した。12月のイギリスへの調査では、UCL学内の大学博物館各館へのフィールドワークに加え、UCL大学教育研究所図書館等への訪問による関連資料の収集ができた。これらの資料はヒアリングでの質問項目作成のために整理していく予定である。さらに、イギリス国内における大学博物館の事例として、スコットランド地方の芸術都市であるグラスゴーの大学博物館へ赴き、医学に特化した学術標本展示の事例に関する資料収集を行った。 また、上記の作業に加えて、国内における実物教授を取り入れた博物館の例を整理し、ヒアリング調査の補足資料として把握することができた。この作業によって、国内での博物館教育の実情を踏まえたヒアリング項目を作成することができた。これらを踏まえ、UCLの教育担当者に、多様な学術標本の活用と博物館の教育のねらいを聞き取ることが今後の作業の課題である。さらに、多様なコレクションを擁する大学博物館の教育事例として研究成果をまとめていくため、イギリスにおける大学博物館および実物教授の国内事例について収集すべき資料に関しては、引き続き資料収集及び調査の実施を行っていきたい。
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今後の研究の推進方策 |
研究成果としてまとめる来年度は、4月に現地でヒアリング調査を実施し、資料収集の結果とともに聞き取り内容の整理を行うとともに、併せてイギリスおよび国内における博物館の教育的利用について追加的調査を実施する。また2年目後半には比較分析の結果を研究成果として報告する予定である。 イギリスにおいて行ったヒアリング調査及び収集した資料に関しては、展示物の内容やそれぞれの教育的利用について分析を行うための整理が必要となる。また、大学博物館について展示の特性を検証する上で、わが国の総合大学博物館が抱えるコレクションに関しても、さらなる資料の収集やヒアリング調査が必要である。これらの作業を行うため、2年目の前半は、ヒアリング調査や資料収集を引き続き行うとともに、日英大学の比較分析を行うための資料の整理を行っていく。 また、2年目の後半には、UCLが擁する学術標本より教育的利用の観点から特徴的な資料をピックアップし、それを活用した実物教授の例をまとめる。この分析により、わが国の大学博物館が担う「『社会に開かれた大学』の窓口としての大学博物館」の実現に向けた資料活用と教育機会提供のあり方に対する知見の獲得を試みる。 同時に、研究成果を広く社会へ還元するために、国内外の学会での研究発表を予定している。
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