博物館教育における包括的な実物教授の機能をロンドン大学の学術標本展示から明らかにすることが本研究の目的である。研究計画の最終年度に当たる本年は、博物館教育関係者へのヒアリングと分析、並びに関連する国内外の学会において研究成果を発表した。 本研究の研究実績は以下の通りである。 1)ロンドン大学(UCL)博物館で展示されていた資料の中から、広島で被爆した日本人女性の肖像画に焦点を当て、大学博物館における学術標本の保存に平和学習の視点を加えて分析を行った。その成果を、ベルファストで実施されたINMP第9回大会にてポスター発表した。 2)イギリスでの現地調査を実施し、UCLが所蔵する自然科学分野の学術標本について学生がどのように活用しているのか、授業実習の参与観察を行った。また、博物館実習を担当する教員へヒアリングを行い、学術標本を用いた実物教授の授業設計について聞き取りを行った。 3)社会教育における多文化、すなわちバイ(マルチ)カルチュラルの視点から大学博物館の所蔵する学術標本の活用についてUCLの事例及び国内大学博物館の事例を比較した。さらにピース・スタディの観点から被爆資料の取り上げ方を検討し、その研究成果をAPPRAにて発表した。 4)大学博物館により多くの子どもたちが博物館を訪れるための方策として、学校教育のカリキュラムに博物館見学をはじめとした校外活動を取り入れているフィンランドの事例を分析した。新カリキュラムで校外活動が推奨されたことを受け、アテニウム美術館、現代美術館キアスマ、シネブリュコフ美術館の国立美術館3館では、子どもに解説ではなく問いかけるかたちの自由な観察をうながすプログラムが設計されており、能動的な観察を促す取り組みが行われていた。その研究報告として、10月に国際シンポジウムを開催した。
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