研究課題/領域番号 |
16H07292
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
今任 景一 早稲田大学, 理工学術院, 助教 (80777970)
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研究期間 (年度) |
2016-08-26 – 2018-03-31
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キーワード | メカノバイオロジー / メカノケミストリー / メカノクロミズム / 高分子化学 / 電荷移動錯体 / 電荷移動相互作用 / 蛍光分子 / 分子プローブ |
研究実績の概要 |
本研究では、細胞周囲に生じる微小応力の検出が可能な高感度力学プローブの開発と、これを導入したバイオマテリアルの創製を目的として研究を実施した。 まず目的プローブとして、電子豊富で蛍光性のピレン(Py)と電子不足なナフタレンジイミド(NDI)が形成する電荷移動(CT)錯体を設計した。PyとNDIがCT錯体を形成するとPy本来の励起波長での蛍光はOFFになり、一方で応力が加わりCT相互作用が解離すると蛍光がONになると期待した。重合可能な官能基(水酸基)を分子内に2つ有するPyとNDIを合成し、NMR測定や質量分析により生成を確認した。各分子の紫外可視吸収(UV-vis)測定と蛍光測定を行い、それぞれの特性を把握した後、各分子を混合して電荷移動錯体の形成を評価した。Py:NDI = 1:1のモル比で混合した溶液は暗赤色を示し、UV-vis吸収測定では高濃度条件において高波長域に新たな吸収を観測した。また、この混合溶液はPy由来の蛍光を示さなかった(励起波長320 nm)。これらの結果より、予想通り合成したPyとNDIが電荷移動錯体を形成し、その結果Pyの蛍光がOFFになったことが明らかとなった。 次にPyとNDIの水酸基を開始点としたε-カプロラクトンの開環カチオン重合により、高分子鎖中央に各分子を1つだけ有するポリカプロラクトン(PCL)の合成を試みた。サイズ排除クロマトグラフィー測定の結果、数平均分子量(Mn)約3 ~ 5万のPCLが得られたことを確認した。合成したPyあるいはNDIを高分子鎖中央に1つだけ有するPCLを種々の割合で混合し、テフロンシャーレにキャストすることで、混合PCLフィルムを作製した。現在、このフィルムに応力を加えた際に蛍光性が変化するのか、また溶液中において高分子に導入されたPyとNDIが電荷移動錯体を形成しているのかに関して評価を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究計画の申請時は、平成28年度までに目的の力学プローブの合成とそのプローブを有する高分子の合成、さらにそれらプローブと高分子の特性解析を完了する予定であった。プローブの合成とプローブを有する高分子の合成に関して、当初は1分子内にPyとNDIの両方を組み込んで電荷移動錯体を形成させ、両末端に導入した重合性官能基から高分子鎖中央にPyとNDIの電荷移動錯体を1つだけ有する高分子を重合する計画であった。しかし、プローブ合成過程で多くの問題が発生し、プローブ合成経路の変更が必要となった。それまでに得られた知見を活かして再度新たにプローブの設計を行い、重合性の官能基を有するPyとNDIをそれぞれ合成し、高分子化した後、電荷移動錯体を形成させるという比較的合成が簡単な経路に変更した。これらの理由により、当初の予定よりも研究の進歩状況は遅れている。現在は高分子の合成まで完了しており、計画から少し遅れてその評価を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度(最終年度)の研究の推進方策として、まずは合成した高分子の応力応答性に関してより詳細な評価を行う予定である。また、今回はPyとNDIのどちらかを有する高分子をそれぞれ合成した後、高分子同士を混合する、あるいはPyとNDIの電荷移動錯体を形成した後、重合するといったシンプルな手法により、目的プローブを有する高分子材料の作製を試みた。しかし、十分に錯体を形成させるためにはPyとNDIが化学的に結合して近い距離に存在し、立体障害の大きな高分子鎖に相互作用が邪魔されないことが重要と考えられる。そこで、PyとNDIを化学的に結合させて電荷移動錯体を形成した後に重合を行うことで、より高感度に応力検知可能な高分子材料の合成を行う。さらに、今回作製した高分子フィルムや今後改良する高分子フィルム上において細胞を培養し、実際に細胞周囲の微小応力が検知可能かどうか検証する予定である。
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