研究計画の最終年度にあたる本年度では、前年度に引き続き縄文時代人骨を調査して関節炎データの収集を進めるとともに、これまでに得られた成果を論文および学会発表などで公開した。主な活動と成果の内容を以下1・2に示す。 1)大膳野南貝塚出土人骨の研究:千葉県大膳野南遺跡から出土した縄文時代後期人骨群について、形態人類学的および古病理学的検討を実施した。その結果、男性では椎骨の残存する4個体全てに椎間関節炎が生じていたが、女性で椎間関節炎がみられたのは5個体のうち2個体だけであることが判明した。椎間関節炎の出現状況に男女差が存在する傾向は、縄文時代における性的分業の存在を示唆するものといえるかもしれない。その他、新生児人骨の多出、平均的な縄文時代人に比べて顕著に高い齲歯率、エナメル質減形成の高い出現頻度など、生物考古学的に興味深い所見が得られた。本研究の成果は、論文として「Bulletin of the National Museum of Nature and Science Series D」に発表した。 2)神明貝塚出土人骨の研究:東京湾沿岸部では千葉県や神奈川県の貝塚から多くの縄文時代人骨が見つかっているが、湾の最奥に位置する埼玉県における出土例はごく少ない。2016年の発掘調査で春日部市神明貝塚から縄文時代後期人骨3体が出土したが、これらは当該地域の縄文集団の様相を理解する上で重要であると考えられたので、形態学・古病理学・安定同位体食性分析・ミトコンドリアDNA分析など総合的な人類学的調査を実施した。古病理学的に特筆すべき特徴として、3体中2体の人骨の頚椎に重度の椎間関節炎を認めたこと、また、1体の人骨の下顎骨に変形性顎関節症を認めたことを挙げられる。本研究の成果は、第71回日本人類学会大会および発掘調査報告書で発表した。
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