本研究は、組織学的根拠に基づいた安全な耳介矯正装具を開発することを目的としている。そのための基礎研究として、動物モデルを用い組織学的な検証を行った。耳介軟骨の矯正は再生や形成と同様のプロセスを辿ることが考えられるため、耳介部が観察しやすいウサギを用いた基礎実験を行った。 平成28年度はプレ実験として、白色家兎耳介部の通常の軟骨厚、軟骨膜厚と周囲組織の血管数を調査した。次の段階として平成29年度は、耳介軟骨の増生に影響する要因として血管との関連を検証した。まず、白色家兎の軟骨膜近傍へのbasic fibroblast growth factor (bFGF) 投与により耳介軟骨増生モデルを作製し、血管新生に関わるmatrix metalloproteinase (MMP) とvascular endothelial growth factor (VEGF) を阻害し血管新生抑制による軟骨膜細胞増殖と軟骨細胞分化への影響を免疫染色を用い解析した。結果、bFGF刺激 24時間後のMMP阻害群と30分投与を加えた抗 VEGF抗体投与群において,1及び2週間後の軟骨膜周辺での新生血管数が対照群と比較し有意に減少するとともに,MMP阻害群では1及び2週間後の軟骨膜細胞の増殖と2週間後の軟骨細胞分化,抗VEGF抗体投与群の1週間後の軟骨膜細胞増殖と2週間後の軟骨細胞分化の有意な抑制を認めた。抗VEGF抗体投与群と比較し,MMP阻害群は有意に強い血管新生,軟骨膜細胞増殖と軟骨細胞分化への抑制効果を示した。このことから、bFGF刺激による軟骨膜増殖は,bFGFの軟骨膜内間葉系組織幹細胞に対する直接作用ではなく,投与早期の軟骨膜周辺における血管増生作用によることが明らかとなった。
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