本研究の目的は、原子力安全規制分野における地方自治体の法的役割をどのように拡大することが可能なのかを明らかにすることであった。29年度は、北海道函館市、静岡県、島根県、福島県の原子力安全対策課に対してインタビューを行い、国の原子力政策に対して地方自治体がどのように関与していくのが適当なのか、現場の声を聞くことができた。なかでも、函館市は大間原発訴訟において全国ではじめて自治体として原告となっているが、インタビューでは、①地方自治体が国に意見を述べるには現行法制度下では訴訟参加しか残されていなかったこと、②地方自治体が原発政策に対して本件のように意思を統一させるには、党を超えた見解であることを明確にしなければならないこと、などの率直かつテクニカルな意見を聞くことができた。こうした訴訟参加以外の方法には、原子力安全協定を通じた実質的な関与が最も有用であると考えられるが、その運用状況について、静岡県他原子力安全対策課および同県内の電力事業者にインタビューを行った。その結果、①原子力安全協定は紳士協定であるという認識の一方で、実質的には、再稼働の了解規定を含め現場では拘束力を有している実態、および、②UPZ圏の拡大に伴い、隣接協定を新たに締結し、周辺自治体も含めたより多くの自治体が一丸となって協定を通して平時・緊急時の安心安全を確保していこうとしている実態、を明らかにすることができた。そこには協定の法的性質の限界を超えた、協定の運用が見られ、今後においてもその活用が期待できると思われる。なお、原子力安全協定を中心とした地方自治体の役割拡大については、論文において公表予定(掲載決定済み)である。 以上挙げた国内における研究に加え、29年度はアメリカサンフランシスコ市を訪れ、Diablo原発の廃炉に向けて地元自治体および市民団体が交渉した過程について調査することができた。
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