近代の交通に関する研究は,大きく水上交通(舟運・海運)と陸上交通(主に鉄道やトラック)の2つに分けられ,それぞれ研究蓄積がある。近年では,水陸交通の両側面から取り組んだ研究がみられるものの,両者の近接性や輸送補完関係などに踏み込んだ空間的検討が不十分である。その一方で,明治期から昭和初期にかけて,鉄道網や道路の拡張,河川改修,築港などの交通インフラが著しく変化し,近代の交通を取り扱う場合,時間的検討も必要となる。そこで本研究では,まず,時空間分析ができるように近代水陸交通に関する歴史GISデータベースを構築する。次に,近代水陸交通の地域的変化を分析し,その地域差が生じる要因や変遷過程を明らかにする。最終的に,歴史GISを用いた新たな水陸交通研究を提示する。 平成29年度は,平成28年度と同様,本研究の遂行に必要な史資料,地形図,地図類の収集およびデータの整備を行った。具体的には,基盤となる近代水陸交通に関する歴史GISデータベースを構築するために,明治期から昭和初期にかけての旧版地形図のデジタル化を行った。利根川流域を中心に,まず,流域内を網羅する旧版地形図を入手し,愛知大学で所有する大型スキャナーを利用して,TIF形式でデジタルデータ化した。次に,ArcGISを用いて,TIF形式の画像のジオリファレンス(緯度経度座標の付与および幾何補正)を行い,そして,GISデータ化(ラスターデータ)した。さらに,データ化した旧版地形図をもとに,河川や港湾,主要道,鉄道などの水陸交通に関わるGISデータ(ベクターデータ)を作成した。 上記の作業とともに,利根川流域では現地調査(フィールドワーク・資料収集・聞き取り)を実施した。本年度は中流から下流部(河口)までを範囲とし,2年間で淀川流域とともに,利根川流域全体を網羅し,調査を通して,新たな情報を得ることができた。
|