研究課題/領域番号 |
16H07322
|
研究機関 | 長浜バイオ大学 |
研究代表者 |
亀井 優香 長浜バイオ大学, バイオサイエンス学部, 博士研究員 (90772153)
|
研究期間 (年度) |
2016-08-26 – 2018-03-31
|
キーワード | ビタミンB6 / 細胞寿命 / 分裂寿命 / 出芽酵母 |
研究実績の概要 |
生物の寿命は遺伝要因と環境要因により決定されることが個体と細胞レベルの研究で解明されてきた。今まで主要栄養素による寿命制御は調べられてきたが、ビタミンなどの微量栄養素については知見がほとんどなかった。研究代表者は、酵母細胞内のビタミンB6が欠乏すると細胞寿命が短くなることを見いだした。本研究の目的は、ビタミンB6による細胞寿命制御機構を解明することである。ビタミンB6合成酵素遺伝子が老化細胞で転写誘導されることから、その転写誘導の仕組みを解明することにより、細胞老化の引き金となるシグナルや制御因子を明らかにする。また、ビタミンB6はアミノ酸代謝酵素などの補酵素であるため、どの細胞内代謝がビタミンB6による寿命制御に関与するのかも明らかにする。前年度は、以下の課題に取り組んだ。 A. 老化に伴うビタミンB6合成酵素遺伝子の転写誘導メカニズムの解明 ビタミンB6合成酵素SNZ1遺伝子を老化細胞特異的に転写誘導する因子を、出芽酵母の転写因子遺伝子破壊株コレクションを用いた発現解析により探索する。まず、SNZ1遺伝子プロモーターにβ-ガラクトシダーゼlacZ遺伝子を連結したレポーターを利用し、SNZ1発現誘導に必要な転写因子を絞り込むことを試みた。しかし、このレポーター遺伝子を導入した菌株のコロニーは、X-galを加えた培地において老化が進行していると考えられる中心部だけでなく、全体が青く呈色した。 B. ビタミンB6欠乏による短寿命の原因解明 出芽酵母の全活性型ビタミンB6依存性酵素遺伝子49個から、破壊すると分裂寿命が短縮する遺伝子を同定した。これらのうち4遺伝子は芳香族アミノ酸の代謝酵素をコードし、またこの短寿命変異株ではビタミンB6取り込み酵素遺伝子破壊株と同様に芳香族アミノ酸量が増加した。このことから、ビタミンB6の欠乏による短寿命の原因は芳香族アミノ酸の蓄積であると推定した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
A. 老化に伴うPLP合成酵素遺伝子の転写誘導メカニズムの解明 ビタミンB6合成酵素SNZ1遺伝子を老化細胞特異的に転写誘導する因子を、出芽酵母の転写因子遺伝子破壊株コレクションを用いた発現解析により探索するために、SNZ1遺伝子プロモーターにβ-ガラクトシダーゼlacZ遺伝子を連結したレポーターを利用し、SNZ1発現誘導に必要な転写因子を絞り込むことを試みた。しかし、このレポーター遺伝子による評価系は機能しなかった。このため、全転写因子遺伝子破壊コレクションをひとつひとつ培養し、SNZ1遺伝子の転写量を測定する必要がある。 B. ビタミンB6欠乏による短寿命の原因解明 短寿命であった活性型ビタミンB6依存性酵素遺伝子破壊株のメタボローム解析は今年度に行う計画であったため、順調に進展していると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
A. 老化に伴うPLP合成酵素遺伝子の転写誘導メカニズムの解明 PLP合成酵素SNZ1遺伝子を老化細胞特異的に転写誘導する因子を、出芽酵母の転写因子遺伝子破壊株コレクションを用いた発現解析により探索する。まず1次スクリーニングとして、一般的な培養条件(YPD完全培地、対数増殖期)でSNZ1 の発現に必要な転写因子を探索する。出芽酵母の生育に必須でない転写因子の遺伝子破壊株(全175株)から全RNAを抽出し、RT-qPCR法によりSNZ1 遺伝子の転写量が野生型と比べて減少する株を目的の候補株とする。次に、ビオチン標識法により候補遺伝子破壊株の11世代の老化細胞を回収し、RT-qPCR法でSNZ1遺伝子の転写量を調べることにより、その転写因子が老化細胞におけるSNZ1遺伝子の転写誘導に必要なことを確認する。老化細胞特異的転写因子が既知のシグナル伝達系に含まれるのであれば、その伝達系構成因子の遺伝子破壊株が短寿命となることを確認する。 B. ビタミンB6欠乏による短寿命の原因解明 細胞内芳香族アミノ酸の蓄積が、活性型ビタミンB6依存性酵素遺伝子破壊株やビタミンB6取り込み酵素遺伝子破壊株の短寿命の原因であることを証明する。ビタミンB6取り込み酵素遺伝子破壊株の芳香族アミノ酸合成酵素遺伝子を破壊すると寿命が回復することを調べる。芳香族アミノ酸量を増加させる変異株が短寿命となること、また野生型株において芳香族アミノ酸の過剰添加が分裂寿命を短縮させることを調べる。
|